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2008年1月 3日 (木)

泉鏡花の「婦系図」を読む

「婦系図」は原作の小説よりも芝居や映画のほうが面白いといわれている不思議な作品です。でも、小説の「婦系図」も実際に読んでみると江戸情緒が漂っていてドラマチックでかなり面白いです。ただ、取って付けたような復讐物語的な結末が何だかメチャクチャな感じで興醒めがします。せっかく面白かったのに・・・。
この小説は、結末を書かないで病床のお蔦が臨終を迎えるあたりでぶった切るようにして終わってしまえばよかったのではないかと思います。そうすれば読者から「続きを書け!」の大合唱が起きたと思います。いくらリクエストされても断固拒否して、「ラストは自分で考えろ」とばかりに筆を折ってしまえば、「芝居や映画のほうが面白い」と揶揄されることもなかったと思います。それどころか、提示されないラストに読者の思いは千々に乱れて、百家争鳴の世紀の大傑作になっていたかもしれません。

小説の「婦系図」は荒削りで突っ込みどころが満載ですが、それなりに面白いので読んで損はない小説だと思います。時代背景の違いによる感覚のずれは如何ともしがたいですが、主税に恋心を抱くお妙の描写は感動的です。かなり力が入っています。お妙のイメージが鮮烈で突出しているため、お蔦のイメージが霞んでしまっています。その後、芝居や映画などでお蔦と主税の湯島境内の別れの場面が挿入されたのは、そうでもしないと物語全体のバランスがとれなかったのかもしれません。

 「分かれろ切れろは芸者の時に言う言葉。今のわたしにはいっそ死ねと言って」

この名セリフで有名な、お蔦と主税の湯島境内の別れの場面は小説にはありません。小説ではふたりの別れは実にあっさりとしています。

いろいろ調べていて、1942年(昭和17年)に「婦系図」が映画化されたときの主題歌「湯島の白梅」(佐伯孝夫作詞)というのを発見しました。

1 湯島通れば 思い出す
  お蔦主税の 心意気
  知るや白梅 玉垣に
  残る二人の 影法師

2 忘れられよか 筒井筒
  岸の柳の 縁結び
  堅い契りを 義理ゆええに
  水に流すも江戸育ち

3 青い瓦斯灯 境内を
  出れば本郷  切り通し
  あかぬ別れの 中空に
  鐘は墨絵の 上野山

最初の「湯島通れば 思い出す」の部分はかすかにどこかで聞いた記憶があります。しかし、この歌が映画化された「婦系図」の主題歌だったとは初めて知りました。歴史のある名作は奥が深いです。

 ♪ 義理と人情を秤(はかり)にかけりゃ義理が重たい男の世界~

この歌は「婦系図」とは関係ありません。高倉健の「唐獅子牡丹」でした。

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