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2008年4月11日 (金)

宮本百合子の「伸子」を読む・その1

宮本百合子の「伸子」は、才気煥発な天才的文学少女の佐々伸子が、やがて夫となる佃に出会ってからその結婚生活が破綻するまでの6年間を克明に描いた自伝的小説です。

佃一郎は古代語を研究している貧乏学者です。外から見ると優しくて真面目な人、内から見ると何もない空っぽな人です。まあ、どこにでもいる内向的なありふれた男です。伸子はそんな佃を純粋な人だと勘違いして愛してしまい、周囲の反対を押し切って15歳年上の佃と結婚してしまいます(佃35歳、伸子20歳)。

ふたりの結婚生活がどうなったかというと、やはり歯車がかみ合いません。佃は社交性が乏しく酒も飲まずにギャンブルもやらない、浮気もしません。何事にも消極的で殻に閉じこもった自己保身的な生活を送っています。覇気がありません。仕事(学問)に対する情熱もなく小市民的な生活に満足してただぼんやりと暮らしています。伸子にはそんな佃の生活態度が気に入りません。優柔不断で煮え切らない佃の振る舞いが伸子の癇に障ります。伸子は愛しているふりをしている(ようにみえる)佃の演技的態度を憎みます。佃としてみれば、伸子が何をやっても何をやらなくても文句は言わない、ただ傍にいてくれればそれでいい、ほかになにも望まない・・・それが伸子に対する最大限の愛の表現だったようです。しかし、ほとんど無関心に等しいような愛の表現は伸子には通用しません。伸子はイラつきます。佃のやることなすことのすべてが伸子には表面だけの演技的態度にみえてしまいます。

伸子は思い悩んで何とか佃との関係を改善しようとします。しかし、事態は好転しません。性格の不一致、人生観の不一致が時とともにますますはっきりと意識されるようになります。いつしか佃の態度を憎んでいた伸子も、佃と同じような演技的態度で佃に接するようになっていきます。そのことを自覚したとき、伸子は佃に対する憎しみとともに激しい自己嫌悪に苛まれます。すでに破局は目前です。一度は愛し合ったはずなのに、お互いが憎み合いながら愛なき結婚生活を演じ続ける苦痛に伸子は耐えられません。あとは決断あるのみです。

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