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2008年5月20日 (火)

夏目漱石の「虞美人草」を読む

「虞美人草」は美貌のヒロイン藤尾を巡る3人の男の物語です。いや、女性も3人出てくるので3人の男と3人の女が繰り広げる義理と人情の「恋の空騒ぎ」といった感じの小説です。結末が唐突で悲劇的です。思わずのけぞってしまいました。

「虞美人草」は夏目漱石の作品としてはあまり高く評価されていません。失敗作であるとも言われています。確かに、純文学的(?)立場からすると物語があまりにもドラマチックで登場人物のキャラクターも類型的です。善人と悪人の役割分担がハッキリしていて勧善懲悪的な匂いもします。

「虞美人草」は明治40年6月から朝日新聞に連載された夏目漱石の初めての新聞小説です。教師の職を辞して朝日新聞に入社した漱石が職業作家としてやっていけるかどうか、それを占う試金石ともいうべき作品だったと思います。

専属作家として破格の好待遇で迎えてくれた朝日新聞の期待に応えるためにも、とにかく面白いものを書かなくてはいけないという重圧は相当なものだったと思います。職業作家としていちばん怖いのは移り気な一般読者からの不評です。本格的作家生活に踏み出すに当たって、漱石としては読者からの不評だけは何としても避けたかっただろうと思います。

当時の新聞小説で一世を風靡していたのは泉鏡花の「婦系図」でした。漱石は「婦系図」のどこが読者に受けるのかを徹底的に研究したと思います。「虞美人草」には「婦系図」の影響が色濃く反映されています。どこがどうというのは難しいですが、「虞美人草」を読んでいるとなぜか「婦系図」を連想します。情念のドラマというか全体の雰囲気が非常によく似ています。

「虞美人草」は夏目漱石の小説としては異色ですが、漱石の作品だと思わないで当時流行した通俗小説だと割り切って読むのがいいと思いますす。少なくとも「坊っちゃん」(中学生が先生を演じている童話)よりはマシです。

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