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2009年5月 8日 (金)

小谷野敦の「『こころ』は本当に名作か」(新潮新書)を読む

関川夏央の「新潮文庫20世紀の100冊」(新潮新書)を買おうと思って書店に行ったら、となりに小谷野敦の「『こころ』は本当に名作か」(新潮新書)という本がありました。まえがきを立ち読みするとただならぬことが書いてあります。

「編」などというのは、下手をすると単に名前を貸しているだけで本人は何もしていないということもある。

あらまあ。嫌な予感です。間違っていたら申し訳ないですが、ザッと見たところ「新潮文庫20世紀の100冊」というのがまさにそういう雰囲気の本でした。100冊の解説は別に実際に読まなくても、ネットで調べれば書ける程度のことしか書いてありません。何だか粗製乱造のマニュアル本のような感じで関川夏央の個性が感じられません。それに「あとがき」もありません。うむ、怪しい。

そこで予定を変更して「『こころ』は本当に名作か」を買うことにしました。この本はサブタイトルが「正直者の名作案内」となっていて著者独自の判断で、「世間的には古典名作とされているものでも、ダメならダメと判定を下す」という内容になっています。もちろん、一方で「文学作品のよしあしに普遍的基準はない」ことも指摘していて、著者の判定はあくまでも著者独自のの判定であって、それが正しいとか、絶対であるとか、そういう野暮なことを主張しているわけではありません。

この本の著者は、特に夏目漱石とドストエフスキーに対する評価が厳しいです。まるで親の仇ででもあるかのように罵詈雑言を浴びせかけています。そこで、(ドストエフスキーについてはあまりよくわからないので)夏目漱石について少し個人的な意見を述べたいと思います。あくまでも個人的な意見です。

小谷野敦は谷崎潤一郎の評伝を書いています。谷崎潤一郎は夏目漱石をあまり高く評価していませんでした。おそらく、小谷野敦は、夏目漱石を評価しないという視点を、谷崎潤一郎から学んだのだと思います。

夏目漱石を評価しないというのはそれはそれとしてかまわないと思いますが、もしそうであれば、「トップクラスの名作」になぜオースティンが選ばれているのか疑問です。似たような小説であるのに、オースティンならトップクラスの名作で、漱石は認めないというのは不公平だと思います。「独自の判断」にもそれなりの一貫性は必要ではないでしょうか。

漱石の小説の中では小谷野敦にも比較的評価が高かったのは、「吾輩は猫である」、「坊っちゃん」、「虞美人草」の3作品です。しかし、漱石の小説に関する限り、初期の作品を評価するという視点はどうも納得がいきません。

「『坊っちゃん』は名作の名に恥じない」と評していますが、あの駄作のどこが名作なのでしょうか。本当に読んでいるのでしょうか。

「吾輩は猫である」については、「私個人は特に好きではないが、十分面白い小説だ」としています。退屈で眠くなるあの小説のどこが面白いのでしょうか。好きでないなら面白いなどといわないほうがいいと思いますがね。

「虞美人草」については、「当時の新聞小説の常套にに則りつつ、独自の美文で綴られていて評価するにやぶさかでない」のだそうです。「虞美人草」は典型的な通俗的観念小説です。単なる「婦系図」の真似だと思うのですがね。

結論として、夏目漱石の代表作をひとつ選ぶとしたら、やはり未完の大作「明暗」だと思います。いろいろ問題はあるにしても、漱石文学が日本の近代文学の最高峰であるという図式はそう簡単に崩れるものではないと思います。

小谷野敦は、基本的に美文の小説に甘いですが、その対極の自然主義文学にも一定の理解を示していて、田山花袋や近松秋江をそれなりに評価しています。清濁併せ呑むといった感じでその立ち位置がユニークで面白いです。

さすがだと思ったのは、「二位級の名作」として、有島武郎の「或る女」と宮本百合子の「伸子」を挙げていることです。二位級といっても、トップレベルの作家として挙げられているのは4人(曲亭馬琴、泉鏡花、川端康成、谷崎潤一郎)だけですから、事実上はトップレベルと考えてもかまわないと思います。有島武郎の「或る女」や宮本百合子の「伸子」は読む人が読めばやはり名作なのだと思います。

で、小谷野敦が挙げている「日本文学史上の最高峰の名作」は何かというと、

紫式部の「源氏物語」だそうです。

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