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2009年11月21日 (土)

小池真理子の「無花果の森」を読む・第11回(11/20)

 クレジットカードは持っているが、使えなかった。

そりゃ使えませんよ、偽名で泊まるんだから。

プロのフロントマンなら、お客の一瞬のためらいや動揺を見逃したりはしません。「高田様」と呼びかけたときの泉の微妙な反応で、偽名を使っていることは見抜かれていると思います。ただあえて深くは詮索しないのが商売のコツというものです。お客がいくら怪しげでもお金さえ払ってくれればいいわけです。「運転免許証はお持ちでしょうか?ちょっと拝見させてください」などとは絶対に言い出しません。

フロントマンがどこか抜けていてぼんやりしているように見えたとしたら、それはお客を安心させるための気遣いです。このフロントマンは見かけによらずかなり優秀なのかもしれません。

 誰も乗っていない簡素なエレベーターに乗り、十二階で下りた。
 廊下にも人の気配はなく、どこかから絶え間なく風の音だけが聞こえていた。

十二階というのはこのホテルの最上階です。この小説の第1回は、

 六月の、雨の夕暮れ時である。

という短い一文で始まりました。そして、ホテルの最上階から見渡した雨に濡れた夕暮れ時の街の描写が続きました。つまり泉は前日の夜遅くにこのホテルにチェックインして、翌日の夕暮れ時にもまだホテルにいたのです。

ホテルを出て行くといっても別に行く当てがあるわけではないし、翌日が雨だったために泉は動くのがめんどくさくなってしまったのかもしれません。

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