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2009年12月17日 (木)

「無花果の森」第32回(12/16)

この小説は、東京に関しては「東横線の都立大学駅」など、東京近辺の人しか知らないような実在の私鉄や駅名が出てきます。

しかし新谷泉がたどり着いた岐阜大崖というところは架空の街で実在しません。小説に出てくる街は、泉にとっては見知らぬ街でも、世間的には実在する街のほうがよかったのではないでしょうか。たとえば、美川憲一の「柳ヶ瀬ブルース」で有名な柳ヶ瀬はなんと岐阜市に実在しました(一昨日、TBSの「うたばん」でやっていた)。泉がそうとは知らずに柳ヶ瀬の街を彷徨っていたなんてロマンチック(?)ですよ。架空の街だと、岐阜県に住んでいる読者からすれば、「岐阜大崖?そんなとこないよ」ということで、何だか地元が馬鹿にされたような気分になると思います。もう遅いか……。
    

さて、第32回です。店に入ってきたのは、天坊先生ではなくて、店主と同じ年恰好の二人の男でした。常連客のようです。天坊先生かと思いましたが、わが予想は見事にはずれました。天坊先生は足が悪いからあまり出歩かないんですね。

二人の男は何か裁判沙汰になりそうな揉め事を抱えているようでした。弁護士がどうのこうのという話をしています。泉には、まるで「出て行け」といわんばかりに、店主を交えた三人で額を寄せ合ってひそひそ話を始めました。泉はコースターの裏に天坊先生の電話番号をメモしました。

 半分に折ったコースターをバッグの奥に押し込むと、財布を手に「すみません」と店主に声をかけた。「お勘定、お願いできますか」
 店主が小さなレジスターをたたいて弾き出した金額は、千四百八十五円だった。高いのか妥当な値段なのか、わからなかった。泉は千円札二枚を手渡し、釣り銭を受け取った。

スパゲティ・ナポリタンが七百三十五円、アイスコーヒーが四百円、ホットコーヒーが三百五十円、合計で千四百八十五円です。ナポリタンにはサラダの代金がこっそり上乗せされているかも知れません。でもまあ妥当な金額です。ただし、汚い店にしては高いです。

 日暮れがいっそう濃くなっていた。雨足がさっきよりも強い。泉は持っていた折り畳み傘を開き、急ぎ足で歩きながら、アーケード街に戻った。

六月の日暮れといえば、もう午後七時は過ぎていると思います。雨も降っています。

泉は、電話番号を書いたコースターを取り出して、早速天坊先生に電話をかけ始めました。ちょっと気が早いです。本気で働くつもりなら電話をする前に履歴書ぐらいは用意しておいたほうがいいのではないでしょうか。電話をするのは明日でも大丈夫ですよ、たぶん。競争相手はいません。それよりもまず地図を手に入れて自分がどこにいるのかを確かめるのが先ではなかろうか……。

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