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2010年2月24日 (水)

小池真理子の「無花果の森」第82回(2/22)まで

外は激しい雨です。天坊八重子は泉を相手に四方山話を続けています。今後、泉は八重子から思い出話とも自慢話ともつかない同じエピソードを何度も何度も聞かされることになるのだと思います。まあ、聞いてあげるのも仕事のうちです。

八重子は、売れない詩人がかつて東京のお店でバーテンの仕事をしていたという話を始めました。今から十年くらい前の話です。その詩人は六十歳を過ぎてから雇われたのですが、要領が悪くて三か月ともたずにお払い箱になってしまったそうです。

この八重子の話が作り話でないとすれば、そのお店がどうして役立たずの詩人を雇ったのかという疑問が残ります。考えられるのは次の3つです。

1.詩人がお店のママの親戚だった(叔父さんとか)
2.お得意先の紹介で断りきれなかった
3.詩人の詩が好きで支援するつもりで雇った

まったく縁もゆかりもない還暦を過ぎた老人をあえて雇ってくれるお店なんて世間広しといえども普通はありません。しかも経験はゼロだったみたいだし。
 

この話に続いて天坊八重子(もうすぐ八十歳)は、水商売(?)について妙なことを言い出しました。

 「あたしだって、暗がりで着物でも着て色っぽく座ってりゃ、男がよって来るかもしれないよ。といったって、来るのは全員、変態だろうがね」

キャバクラでも「熟女専科」というのはあるみたいですが、「老婆専科」というのはさすがにないと思います。梅干婆さんを見ると興奮するという話は聞いたことがありません。

  

泉は取り止めのない八重子のおしゃべりを聞いていて次のような感想を抱きました。

 遠まわしに詮索されている気がした。この老画家は、あんたのことなんか、どうだっていい、知りたくもない、と言いつつ、暇つぶしにちくちくと突きまわしては、否応なくにじみ出してくる秘密の匂いを嗅ぎとるのを楽しみにし始めたのかもしれない、と泉は思った。

押し黙って心に秘密を抱えたままでは辛いだろうから、八重子は四方山話をして泉が話しやすい環境を作ってくれていたのだとは考えられないでしょうか。秘密といっても、夫の暴力に耐えかねて失踪したというだけの話です。本人にとっては深刻でも、世間的にはよくある話です。その夫が有名な映画監督だったとしても、天坊八重子にとってはどうでもいいことです。

話してしまえば気が楽になります。よく話してくれたということで信頼関係も生まれます。イザというときに八重子が泉を守ってくれるかもしれません。

クソババアの天坊八重子にそんな善意を期待しても無駄でしょうか。でも、このお婆さんは口は悪いけど、性格はそれほど悪くはないような気がします。むしろ性格が悪いのは泉のほうです。

本来なら、泉のほうからすすんで事情を説明して、すべてを知ってもらった上で雇ってもらうというのが筋です。「(家政婦の)仕事さえきちんとやっていれば文句はないはずだ」みたいな考え方というのはどうも感心しません。

  

第81回(2/20)で、天坊八重子が人物画を描かないことを不思議に思って泉は恐るおそる質問しました。

「どうして、人物をお描きになるのが、そんなにおいやなんでしょうか」

天坊八重子の答えは明快でした。

「簡単さ、人間が嫌いだからだよ」

天坊八重子が読心術を心得ていたら、世の中の人間はすべて面従腹背の唾棄すべき存在に見えたはずです。たとえば、目の前にいる高田洋子(泉の偽名)がその好例です。
 

第82回(2/22)になると、天坊八重子がまた変なことを言い出しました。人間は嫌いだけど死ぬ前に1枚だけ、天井まであるでかいキャンパスに老いさらばえた自分のヌードを
描きたいというのです。裸婦ならぬ裸婆です。

「どうだ、悪いか、とくと見やがれ、ってね。そういう絵を一枚だけ、最後に残して、この世からおさらばするのは、悪くないと思っているんだよ」

ゲージュツ家の発想もここまでくると凡人にはついていけません。本人が大真面目であればあるほど、ますますおぞましさを感じてしまいます。「とくと見やがれ」といわれても遠慮しておきたいです。

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