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2010年2月 7日 (日)

小池真理子の「無花果の森」第68回(2/4)まで

第55回で天坊八重子の部屋の様子が次のように描かれていました。

 部屋は二十畳ほどの洋間だった。床にはくすんだ灰色のアクリルカーペットが敷きつめられ、カーペットの上にはあちこちに染みができていた。
 八重子が座っている椅子の周辺もふくめて、その部屋は八重子のアトリエとして使われているようだった。右手奥には、階段が伸びていた。黒光りした、見るからに傾斜の急な階段だった。

この階段を上がると、「手前に七、八畳ほどのダイニングキッチン。その向こうに、それよりも少し広めの洋間」があるのですが、足腰が弱っている八重子は、階段を上がるのが怖くて最近はひと月もの間、二階には上がっていなかったということです。二階はほとんどゴミ屋敷状態です。

ところで、この間、天坊八重子はお風呂をどうしていたのでしょうか。夏場に何日もお風呂に入らないと汗臭くなります。食事をするのに外出もできなければ階段もひとりで上がれないような体でお風呂に入れたのでしょうか。だいたい元は大崖服装学院だったという老朽化した木造の家屋にお風呂はついているのでしょうか。しばらく疑問に思っていましたが、やはりお風呂はありませんでした。でも、ガス湯沸器付きのシャワーがありました。天坊八重子も老骨に鞭打ってシャワーだけは浴びていたようです。臭くならなくてよかったです。

一階が二十畳の洋間で二階が八畳(?)のキッチンと十畳(?)の洋間というまったく同じ間取りの住居を天坊八重子は壁を隔てた隣りにも確保していました(どうやら賃貸ではなく所有しているようです)。

隣りの部屋は、ゴミ屋敷状態の八重子の部屋とは違って、「隅から隅まで清潔に磨かれて」いました。泉はこの部屋に住むことになりますが、天坊八重子はつい二か月ほど前まで知り合いの男をこの部屋に住まわせていました。

 「八つ年下の男。売れない詩人。でも、そりゃあ、いい男だったよ。美男でね。あたしとは古い友達。彼が五十いくつになった時だったか、女房に愛想つかされて、離婚して、独り身になったんだけどさ。その後、食うや食わずで、あぶなく路上生活者になりそうになった。でもって、見かねてあたしがここに住め、って言ってやったのよ。もちろん、家賃はただで」

こんなことまで泉に話さなくてもいいと思うのですが、泉が来てくれて嬉しくなってしまったのでしょうか。ペラペラとまあよくしゃべります。八重子は泉のおかげで寿命が五年は延びたのではないでしょうか。

この「売れない詩人」がその後どうなったかというと、「この春、桜が終わったころ」に泉が住むことになる部屋で亡くなったのだそうです。八重子の話によれば心臓発作ということです。

失踪中の泉は「人が死ん部屋なんて気味が悪いから嫌だ」などと贅沢を言っていられる身分ではありません。とにかく住むところがないと困ります。それに、人が死んだといっても、八重子の話を信じる限り自殺や殺人があったわけではありません。病気ならば仕方がないです。泉としては、広くて綺麗でよかったと思わなくてはいけません。しかも家賃はただです。
 

八重子の住んでいる部屋と隣の部屋には共有の中庭があります。目隠しの仕切りがないため、中庭に出るとお互いに隣の部屋が丸見えになります。天坊八重子は中庭から自分の部屋(アトリエ)を覗かれたくないらしく、泉が中庭に出ることを禁止してしまいました。仕事中に中庭に人影がチラチラすると気が散るのかもしれません。

泉としては禁止されなくても隣りの部屋など覗いたりはしないと思いますが、八重子としては用があって自分が呼ぶとき以外はほんのわずかでも泉に仕事の邪魔をされたくないということなのかもしれません。

さて、この中庭には一本の木が生えていました。無花果の木です。まだ森でも林でもなく1本の木ですが、ようやく「無花果」が出てきました。

泉はふと、八重子の部屋の玄関に掛けられていた表札を思い出した。そこに彫られ、緑色に彩色が施されていた植物の葉の絵が、無花果の葉だったのではないか、と思った。

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