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2010年3月11日 (木)

小池真理子の「無花果の森」第96回(3/10)まで

第93回で天坊八重子は泉にこう言いました。

 「あんたも急いで支度しておいで。後片付けなんか、明日でいいよ。めかしこむ必要はないけど、薄化粧ぐらいしてきたらどうだい」

人間嫌いの天坊八重子にしてはなんと優しいお言葉ではありませんか。八重子は泉が喜んで「ありがとうございます」というだろうと期待していたと思います。へそ曲がりな人間ほどたまに親切にするときは必ず相手の感謝を期待するものです。それなのに泉は、

 「すみません。……私もご一緒する、ということなんでしょうか」

と迷惑そうに言ってしまいました。言外に「行きたくない」というニュアンスが漂っています。天坊八重子はカチンときて、せっかく機嫌がよかったのに急に不機嫌になってしまいました。

相手が吉彦なら泉はここで一発ぶん殴られるところです。ところが天坊八重子は人間嫌いでも弱い立場の人間を思いやる優しさがあります。

天坊八重子によれば、これから行こうとしている飲み屋は、いかがわしいお店(おかまが経営している)には違いないですが、ワケアリの泉が心配しているような客の身の上をいちいち詮索するような野暮なお店ではないということです。

天坊八重子が泉のことを「あんた」としか呼ばなかったり、「免許証を見せな」みたいなことを言わないのは、それなりに気を使ってくれているのだと思います。こういうお婆さんは大切にしなくてはいけません。

 八重子はそれには応えなかった。杖を手にソファーから立ち上がり、明らかに故意と思われる湿った音の放屁をしてみせるなり、何事もなかったようにそっぽを向いた。

これは「泉の失礼」に対してわざと失礼なこと(放屁)をして、泉の心理的な負担をチャラにしてくれているのです。ますますこのお婆さんはいい人です。

 

さて、大崖城の外堀を埋め立てたという場所に飲食店街がありました。かつては幅二メートルにも満たない狭い路地に居酒屋やスナックなどが軒を連ねて賑わっていたそうです。しかし、今ではすっかり寂れてしまって営業しているお店も二軒だけになってしまいました。かろうじて残っている二軒のうちの一軒が天坊八重子が行こうとしているお店です。袋小路のような狭い路地のどんづまりにあります。この界隈を地元の人は自嘲気味に(?)番外地横丁と呼んでいました。

古い(?)話になりますが、「無花果の森」の第32回で、軽食喫茶ガーベラに二人の男の客がやってきて、店主と三人で額を寄せ合ってなにやら密談(?)を始めるというシーンがありました。密談を始める前に客の一人が次のようなことを言っていました。

「なにしろ例の件で、今日も弁護士と朝から膝つきあわせて、ああでもない、こうでもない、だよ。仕事にもなんにもなりゃしない」

これだけでは「例の件」が何のことだかわかりません。でも民間で弁護士が出てくるトラブルといえば、立ち退きのような不動産がらみのトラブルではないかと考えたくなります。最初は天坊八重子が住んでいる元大崖服装学院の建物に関するトラブルではないかと思っていましたが、どうやらそうではなさそうです。番外地横丁のことで何か揉め事が起きているのかもしれません。あのガーベラの客の密談は何かの伏線だったような気がします(全然関係ないかもしれません)。

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