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2010年3月18日 (木)

小池真理子の「無花果の森」第102回(3/17)まで

バー『ブルー・ベルベット』は番外地横丁のどん詰まりにあります。ひとりもお客が来ない日が2日も3日も続いても不思議はないくらいの寂れたお店です。人をひとり雇えば最低でも月10万円は給料を払わなくてはなりません。はたして『ブルーベルベット』は月10万円の売り上げがあるのでしょうか。マスターひとりでも過剰人員のようなバーで人を雇うなんて……とは思ったものの、雇ってしまったんだからしかたありません。

で、ヒロシというその雇われた男が誰だったかというと、なんとあの雑誌記者の塚本鉄治でした。

泉が塚本鉄治と会ったのは失踪する前に一度だけです。会ったのは一度だけでも泉はその顔を覚えていました。泉が塚本に気がついただけでなく、塚本のほうでも客の一人が新谷泉であることに気づいていました。
 

泉が失踪する前に目黒の自宅付近の路上で塚本鉄治に会った時は、塚本がマスコミの人間(週刊誌の記者)だったこともあって、泉の態度は警戒心と敵意に溢れていました。塚本から渡された名刺も本人が見ている前で破いて雨の中に投げ捨ててしまったほどです。なんだか嫌な女丸出しでした。

塚本鉄治は泉から何かを聞きだそうとするのではなく、泉に何かを伝えたがっていました。ところが、泉のヒステリックで敵意をむき出しにした態度になすすべもなく真意を伝えられませんでした。塚本が何を言っても、泉には取材対象(つまり泉)に取り入るための方便であるとしか思えなかったのかもしれません。

 何故、塚本鉄治がここにいるのか。何故、岐阜大崖の、番外地横丁の奥にある暗いバーで、還暦間近のおかまの手伝いなどをしているのか。

あまりのことに泉の思考は混乱していました。これが偶然だとすればほとんど奇跡です。何をどう考えても合理的な説明が見つかりません。

客の一人が新谷泉だと知って、驚いたのは塚本のほうも同じです。ただ、塚本鉄治は、雑誌記者に似合わず誠実で洞察力のある男です(たぶん)。泉が偽名を口にすれば、おおよその事情を理解して、泉を困らせないような対応をしてくれると思います。

サクラから名前を聞かれた泉としては、「一応、高田洋子でお願いします」と、言外に「本名ではないんですけど……」というニュアンスを含ませるがいいと思います。どうせ天坊八重子はとっくに気がついているし、サクラだって、名前なんてポチでもタマでもあればいいぐらいにしか考えていないと思います。

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