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2010年4月22日 (木)

小池真理子の「無花果の森」第131回(4/21)まで

 「私は絵に詳しくないので」と泉は言った。「知らなかったんですけど、そんなに有名だったんですね」
 「美術の世界での知名度はあります。といっても表に出ることを毛嫌いしてきた人で、決して大家とは呼べないんですが、一部に熱狂的ファンがいるようです。画廊の受けもいい」

週刊誌の記者とはいえ、鉄治にその名前が知られているということは、天坊八重子は画家として相当有名なのだと思います。いかに雑学に長けている週刊誌の記者とはいえ、美術の専門家でもない限り、「現役で活躍している日本の画家を10人言え」といわれて、スラスラ名前を挙げられる記者はまずいないと思います。黒田清輝だの佐伯祐三だの梅原龍三郎だの、昔のビッグネームも引っ張り出してこないとなかなか10人の名前を挙げるのは難しいと思います。天坊八重子の知名度に関しては、本当はサクラに教えてもらったのではないでしょうか。

なにはともあれ、天坊八重子が有名な画家であることがはっきりしました。これで泉も給料の不払いを心配する必要がなくなりました。もっとも、画家の場合、有名であることとその収入は必ずしも一致していないかもしれません。有名だけどビンボーということも十分考えられます。
  

さて、泉の失踪に関してですが、塚本鉄治の情報によれば、

1.新谷吉彦は泉の捜索願を出した
2.公開された泉の写真はピンボケでほとんど役に立たない
3.マスコミは泉に関して根も葉もない憶測を流している
4.マスコミが一番関心を示しているのは吉彦のDVである

こうした動きはほとんど想定の範囲内だと思います。いまさら泉が驚くような想定外のことは何も起きていません。泉にとって、唯一想定外のことがあったとすれば、塚本鉄治という週刊誌の記者が泉を追ってこの街までやってきたことです。しかし、残念なことに(?)鉄治は泉よりも先の五月末に岐阜大崖に来ていました。別に泉を追ってきたわけではありませんでした。

 「あなたが来たのはいつです」
 「六月八日」
 「そろそろ、ひと月近くになるんですね」
 「ええ。でも、時間の感覚はなくなっています。半年くらいたってしまったような気もして」
 わかります、と鉄治は言った。「それにしても、似たような時期に姿をくらましたわけですね。しかも、同じ街に逃げてきたとは」

泉が、半年くらいたってしまったような気がするのも無理はありません。この小説の読者も実際に半年近くこの小説を読んでいます。

泉と塚本鉄治が大崖の街で出会うというのは、ほとんど奇跡に近いような偶然です。そろそろ泉が運命の赤い糸を感じ始めても不思議はありません。とりあえず、泉には、鉄治がなぜこの街に逃げてきたのか、その理由を聞いてもらいたいです。ふたりにとって、残されている唯一の話題はそれだけです。

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