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2010年4月15日 (木)

水木しげる入門・原稿料の話

水木しげるが貸本漫画家になる決意をして上京したのは昭和32年のことです。そのころ、兎月書房という出版社が水木しげるに示したという原稿料の相場は、「一冊百二十ページくらいで、三万円、ただし、税金はさきに一割引かれるから、手にはいるのは二万七千円」というものでした。

昭和32年当時の大卒の初任給は13800円です。平均なのか税込みなのか、たまたまどこかの会社がそうだったのか、詳しいことはよくわかりませんが、とにかく13800円でした。

水木しげるが毎月1冊描いてその原稿料がきちんと払って貰えていれば、大卒初任給の約2倍の収入があったことになります。一人暮らしでこれだけあれば、比較的ゆとりのある生活ができたと思います。水木しげるは、郷里の両親を安心させるために(または見栄を張って)、1冊3万円ということを強調して、ゆとりのある生活をしているかのように思わせていたフシがあります。

実際はどうだったかというと、水木しげるは遅筆です。月に1冊描こうと思うと、年中無休で1日16時間漫画を描き続けなければなりません。

しかも、1冊3万円が相場といっても、確実に原稿料が貰えるわけではなくて、出版社が倒産してしまったり、そんな原稿頼んだ覚えはないといわれたり、2万円なら引き取るがイヤなら持って帰ってくれといわれたり、2万円でもいいからと原稿を渡してもその2万円がなかなか払ってもらえなかったりで、何かと大変だったようです。

貧乏生活の中でなぜか水木しげるはお見合いをして結婚してしまいます(優柔不断で、両親に強く勧められると断りきれなかったのかもしれません)。テレビドラマ「ゲゲゲの女房」のモデルになっている水木しげるの奥さんという人がまた変な人で、

「世の中には、こんなに働いて、こんなに貧乏な商売ってものがあるなんて不思議ねぇ」

などと言って、結婚当初はむしろ感動して喜んでいたそうです。
   

質屋通いで何とか食つないでいるような水木しげるの貧乏生活が転機を迎えたのは、昭和40年になってメジャー出版社(講談社)で作品を発表するようになってからです。

 『鬼太郎』が連載となりその原稿料が入ってくるようになると女房はびっくりした。
「こんなにもらっていいの」
 むりもない、前がヒドすぎたのだ。
「ばか。貸本と雑誌では原稿料は十倍違うんだぞ」
 そうはいっても、女房も夢を見ているようだったし、ぼくもあまり実感がなかった。ただ、厚さ三センチにもおよんでいた長年の質札が、見る見るうちになくなり、質に入っていたものがもどってくるのを見ていると、やっと実感がわいてきた。

                         「ほんまにオレはアホやろか」(新潮文庫)

貸本漫画の原稿料が120ページで3万円だったとすると、1ページ当り250円です。当時の雑誌の原稿料は、(水木しげるの場合)1ページ3000円ぐらいだったのではないでしょうか(「ねえ、いくらだったの?」と聞いてみないと本当のところはわかりません)。

  

昭和40年当時と現在を比べると、現在の物価は当時の約4倍になっています。この間、勤労者(?)の所得はおそらく10倍以上になっていると思います。格差社会だのワーキングプアだのといっても、昭和40年当時と比べれば、現在の国民全体の生活水準はまだはるかに豊かであるといえます。この間、世間並みに漫画家の原稿料が上がっていれば、今ごろは1ページ3万円ぐらいになっていてもおかしくないのですが……。

 漫画家の原稿料に関するネットでの噂 → http://sagisou.sakura.ne.jp/~sakuchin/kazumi/02/38.html

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コメント

今日のゲゲゲの女房の原稿料の前借が3万だったのをみて検索していたらこのサイトを見つけました。

たまに、商業紙に載るか載らないかの新人漫画家(?)兼ニート大学生です。

考察面白いですね。
現在、新人の原稿料はマイナー紙で7000円。
それなりに気前の良いマイナー誌なら(エロとか)8000円
メジャー誌になってきますと一枚9000円から10000円でしょうか?
かの雷句真先生は最後まで12000円だったそうです。
昔はそんなに良いものだったんですね。

とはいえ30枚も描かせていただくと15万から30万になります。かといって載るかもわからないのですが。

新人にとって同人誌などを売りますと、それなりに売ることが出来る人ならば確実に5万~10万は稼ぐ事ができます。
ですから同じ年の友人は皆こちらに行ってしまいます。就職してたまに描いてれば事足りるからです。ネットで多くの人に見てもらう事もできますし、ファンをつくり作家を気取ったり、あるいは本当にネット通販で本をうり作家を本業にしてしまう人もいます。


いくら漫画家になりたい人間が多いとはいえ、今のように有名になる方法が商業紙だけではないとなると、有名になりたいだろう?多くの人に読んでもらいたいだろう?という呼びかけでは新人が集まりません。

アシスタントは24時間-睡眠時間=作業時間
が当たり前の状態ですし、努力して連載を勝ち取っても10週で打ち切られる事もあります。かといって就職に生かせるかといえば否ですからね。

今現在、商業紙はペイを高くするくらいしか魅力が無いように思いますね。

そういうことになったら歓喜しますがw

投稿: | 2010年5月17日 (月) 16時19分

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