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2010年6月22日 (火)

小池真理子の「無花果の森」・第179回(6/21)まで

「(事実かどうかはともかくとして)関係者の話によるとこうだ」と、関係者(?)が話した内容をそのまま紹介して、あとは憶測で話の内容を面白おかしく脚色してから、事実かどうかは読者の判断に委ねます、といったような記事が週刊誌には多いです。

しかし、鉄治は、きちんとした記事を書きたかったらしく、グラビアアイドルの水沢なつみから聞いた話の裏をしっかり取ろうとしました。暴力団との絡みもはっきりさせなくてはなりません。

水沢なつみの話を要約すると、「三浜プロ社長の三浜作次郎(63)とトップアイドルの大道ひな(26)はともに覚醒剤中毒でこのふたりには肉体関係がある」というものでした。

『週刊時代』の記者だった鉄治は、「立志伝を連載で書かせてもらいたい」と偽って、三浜作次郎に取材を申し込みました。

 「まず断られるだろうと覚悟していたんですが、意外にも引き受けてもらえた」

鉄治の隠された目的を三浜作次郎は察知していたかもしれません。海千山千の男です。無防備に近づいてくる鉄治を逆に利用してやろうと考えたとしても不思議はありません。
  

芸能プロダクションにも政府の官房機密費のような工作資金があるのかどうかわかりませんが、いざというときのために、マスコミ関係者は金と女と酒で懐柔しておくのが得策だと思います。できればひとりひとりの弱みを握っておいて、「変な記事を書くとあのことをバラすぞ」と、脅しが出来る状態にしておくと好都合です。もっとも全マスコミを抑え込むには、政府の官房機密費のような巨額の資金を使わないと無理かもしれません。

 

三浜作次郎は、鉄治の取材が終わってから、鉄治を銀座の(高級?)クラブにつれていきました。二十数年前、三十代半ば過ぎの若さで海で溺れて亡くなったという作次郎の弟に鉄治が似ているんだそうです。その後、三浜作次郎は頻繁に鉄治を飲み会やパーティなどに誘うようになりました。

 「高級カラオケクラブのVIPルームに誘われた時、そこに後から大道ひなが来て、紹介された……で、三浜は、僕の前で、その大道ひなとわざとらしく親しげにふるまうんです。そこに至って、何かが変だ、っていう不信感を持つべきだった。迂闊でした」

鉄治は長々と三浜作次郎や大道ひなとの出会いについて泉に話しました。でも、泉には依然として何が何だかよくわかりませんでした。

さらに鉄治の話は続きます。

今年(2009年)の5月23日のことです。しばらく(三ヶ月くらい)音沙汰のなかった水沢なつみから鉄治に電話がかかってきました。なつみは結婚することになったらしく、その報告の電話でした。相手はひとまわり年上の実業家です。なつみが(自称)二十三歳ですから相手は三十五歳くらいです。

 「だんな様になる人のこと、鉄治さんにもきちんと報告したいと思っていたの。急だけど、今夜、ちょっとだけ出て来られない?」
 結婚が決まったばかりという若い女から、明るい声で電話がかかってきて、正式な報告かたがた会いたいと言われ、警戒しなければならない理由は何もなかった。

鉄治は六本木にあるホテルのバーでなつみに会うことにしました。鉄治は何か新しい情報でも聞き出せるのではないかと内心期待していました。しかし、なつみからは「通俗的で退屈な、馬鹿げた結婚の報告話」を、うんざりするほど聞かされただけでした。

 結婚することになったという男について、ロマンス小説のヒロインのごとく褒めちぎっているなつみがどこか憐れにも思えた。結婚するという相手は、いかにも、なつみのような女が簡単になびきそうな男だった。

このときの鉄治は真面目で誠実なイメージとはちょっと違っています。何だかウラオモテがあるようで嫌な感じです。鉄治も「バカな女」には思いっきり冷淡なところがあるのでしょうか。悪人とまでは言いませんが、なつみに対してはかなり上から目線です。

「あたしの結婚にケチつけるつもり。焼いているんでしょ」などと非難されてもいいから、言うべきことはきちんと言っておいてあげたほうがいいのではないでしょうか。結婚詐欺かもしれないし……。

バーでは、同じような話を別の角度から繰り返すような退屈な会話が続きました。そのうちなつみが時計を気にするようになったのをしおに、鉄治はバーを出ることにしました。

鉄治が会計を済まそうとしたそのとき、故意か偶然か、鉄治のケータイに電話がかかってきました。

 ディスプレイには「非通知設定」とあった。何かいやな感じがした。
 「ちょっと待ってて」となつみに言い、鉄治はスツールから下りた。「すぐ戻るから。釣りが来たら受け取っておいて」
 バーから早足で出て、警戒心をこめた固い口調で「もしもし」といった。電話をかけてきたのは三浜作次郎だった。

三浜は鉄治に何か特別の用があったわけではなく、今日が死んだ弟の命日とかで、ふと鉄治の声が聞きたくなったんだそうです。三浜からの電話は唐突な感じで切れました。まるで鉄治に席を外させるためにかけてきたかのようです。

鉄治がバーに戻ると、なつみが鉄治のジャケットを抱えて佇んでいました。

 「はい、これ」と言って、釣り銭を彼(鉄治)に手渡してから、ジャケットを拡げ、着せてくれようとした。
 そんなことをする娘ではなかったので、不思議に思いながらも、彼(鉄治)は「ありがとう」と言い、着せかけられたジャケットの袖に腕を通した。

なんだかいかにも怪しいです。ジャケットのポケットに何か入れられていないか確かめたほうがいいです。とろい女だと思っていた水沢たなつみが実は三浜作次郎の回し者だったかもしれません。

 水沢なつみの人生訓
     ↓
有名になるためだったら、あたし、何でもやります。脱ぎます。寝ます。チクリます。裏切ります。寝返ります。二重スパイも任せてね。これがあたしの生きる道……でも、シャブはやらないの。

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