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2010年7月13日 (火)

小池真理子の「無花果の森」・第196回(7/10)まで

泉が大崖の古書店で購入した『新訳聖書』には、「山本かず子」という署名がしてありました。この「山本かず子」というのは天坊八重子の本名ではないかとずっと思っていましたが、いまだに真相は不明です。

泉が『新訳聖書』といっしょに購入したヘルマン・ヘッセの『メルヒェン』には「一九五二年盛夏、東京銀座にて求む」と記されていました。この『メルヒェン』も「山本かず子」の蔵書だった可能性が高いです。

一九五二年といえば、今(2009年)から五十七年前です。山本かず子が天坊八重子だったとすると、五十七年前ならまだ二十代前半です。妖怪・天坊八重子にも当然のことながら若いころがありました。「聖書」を読んだり、ヘルマン・ヘッセを読んだりして真面目に(?)青春をしていた時代があったのかもしれません。
  
 
足腰が不自由な天坊八重子は、土曜日の朝に二階から一階に下りて来ると、土曜日の夜は二階に上がらずに一階で寝ることになります。日曜日は泉が休みのため、二階に上がってしまうと日曜日に一階に下りられなくなるからです。

日曜日の食事はどうしているのでしょうか。朝食は抜きで、あとは出前ですませているのかもしれません。泉が休みのため、日曜日の夜もそのまま一階で寝ることになります。

土曜日の朝に二階から下りてきた天坊八重子が再び二階へ上がるのは月曜日の夜です。泉が日曜日に1日休むだけで、足腰が不自由な天坊八重子は、土曜、日曜、月曜と三日間ずーっと一階で暮らすことになります。いいかげんベッド(?)を下に下ろして二階に上がるのやめればいいのにね。
  
 
さて、その後、泉は鉄治から連絡がないまま金曜日の夕方を迎えていました。この間、泉は鉄治から電話がかかってくるのではないかと、やきもきしながら待っていました。

鉄治が泉に電話して「忘れていましたが、来週も来てくださいね」と言うか、泉が鉄治に電話して「来週も伺ってよろしいですか?」と言うか、どちらからでも思いついたほうがすぐに電話すればいいだけの話なのですが、現在の泉(38)と鉄治(42)はほとんど初心(うぶ)な中学生状態です。恋心(?)が芽生えてしまうと、よほどの鉄面皮でない限りどんな人でも優柔不断になります。いや、泉と鉄治はふたりとももともと性格が優柔不断なのかもしれません。

   

泉は、天坊八重子がシャワーを浴びている間に、夕食を運んでこられるようテーブルの上を片付けていました。

 泉は、八重子のデッサン用の古い、二冊の大型スケッチブックの下に、薄手の本が一冊、さし挟まれていることに気がついた。

泉がふと表紙を見ると「富永草介詩集」とありました。泉の部屋で死んだという売れない詩人の本です。

 青色の扉のページ部分に、黒いサインペンで「誰よりも愛しい人、八重子へ」とあった。署名は「富永草介」、日付は「一九八七年四月三日」だった。

かつて天坊八重子はこの詩人のことを泉にこんなふうに話していました。

 「八つ年下の男。売れない詩人。でも、そりゃあ、いい男だったよ。美男でね。あたしとは古い友達。彼が五十いくつになった時だったか、女房に愛想つかされて、離婚して、独り身になったんだけどさ。その後、食うや食わずで、あぶなく路上生活者になりそうになった。でもって、見かねてあたしがここに住めと言ってやったのよ。もちろん、家賃はただで」

この売れない詩人は、天坊八重子にとって、もともとは単なる茶飲み友達ではなかったようです。今は妖怪のような天坊八重子も、昔はぽっちゃりとした(?)それなりの美人だったかもしれません。富永草介は八重子よりも八歳年下でしたが、それくらいの年齢差なら許容範囲です。新聞報道によれば、恋多き女優・松雪泰子(37歳)など、10歳年下の恋人(ラッパー)と熱愛中だそうです。

 富永草介という詩人は、八重子の恋人だったのだ、と思った。どの程度の深いつきあいをしたのかわからない。どれほど情熱的に想い合っていたのかもわからない。だが、何があったにせよ、二人は間違いなく、男女の関係にあったのだろう、少なくともかつて、そういう時期があったのだろう、と泉は確信した。

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コメント

はじめまして。
「無花果の森」で検索していたら辿り着きました。
私も日経新聞夕刊の「無花果の森」を読んでいます。
主人公の泉に松雪泰子さんをイメージしていると
おっしゃっていましたが(私は「Mother」は未見なのです)
私は木村多江さんを重ねて読んでいます。
新谷監督は大森南朋さんかな。
こうやって俳優さんをイメージして読むのも楽しいですね。

また「無花果の森」を語らい合いましょうね!

投稿: ポチ | 2010年7月16日 (金) 00時18分

ポチさん、コメントありがとうございます。
 
「Mother」の松雪泰子さんは、いつも眉間に皺を寄せていて絶対に笑わなかったところがよかったです。ドラマでは最初から最後まで一度も笑顔がなかったと思います。
 
木村多江さんというと、あの久本雅美(なぜか呼び捨て)を美人にしたような顔の女優さんですね。何となくいいかもしれません。
 
大森南朋さんは「龍馬伝」ではじめて知りました(武市半平太役)。あの三白眼で暴力を振るわれたら確かに怖いですね。

投稿: むぎ | 2010年7月17日 (土) 20時32分

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