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2010年7月20日 (火)

小池真理子の「無花果の森」・第202回(7/17)まで

夏の連続テレビドラマで「逃亡弁護士」(フジテレビ系列毎週火曜日22:00~) というのをやっています。別に面白いドラマというわけではありません。どちらかといえば面白くないドラマです。

何者かの罠によって、主人公の弁護士・成田誠(上地雄輔)は強盗殺人、放火、横領の容疑者にされてしまいます。動かぬ証拠も犯行に至った動機もすべて都合よく捏造されています。このまま逮捕されてしまえば確実に死刑です。

成田誠は入院中の病院からスキをみて逃亡します。捕まって死刑になるか、それとも冤罪を晴らすことができるか、逃亡弁護士の戦いの始まります。

脚本がダメなのか、演出がヘタクソなのか、演技力に問題があるのか、配役ミスなのか……イマイチ感動の薄いドラマです(子どもを使って視聴者を感動させようとするドラマの場合、子役に演技力がないと致命的ですぞ)。

さて、日経新聞夕刊に連載されている「無花果の森」の塚本鉄治も無実の罪を着せられて逃亡中です。しかし、鉄治の容疑は殺人などではなくて、覚せい剤取締法違反(覚せい剤の所持)です。犯罪には違いありませんが、指名手配犯として逃亡するにはちょっと罪状が軽すぎます。鉄治は、私服刑事を振り切って逃げてしまったため、公務執行妨害罪にも問われることになります。こちらの罪のほうがむしろ重いかもしれません。

もし、わたしが新谷泉だったら、鉄治には自首を勧めます。とっさの出来心で逃げてしまったということで自首すれば公務執行妨害については不起訴にしてもらえるかもしれません。取調べで事情を説明しても信じてもらえなかったら、ウソでもいいから反省の態度を示して執行猶予にしてもらうことです。供述調書には(事実ではなくても)素直にサインしましょう。世の中、長いものには巻かれたほうが得策というケースもあります。覚せい剤の件は「以後気をつけろ」という三浜作次郎からの警告のようなものです(たぶん)。コンクリート詰めにされて東京湾に沈められたくなかったら、二度と三浜作次郎のような男には近づかないことです。
  

泉は夫の暴力に耐えかねて失踪しましたが、いまだに夫の影に怯えています。でも、この広い日本の中で、失踪して身を隠している人間を個人の力で見つけ出すことなどほとんど不可能です(捜索願など単なる形式にすぎません)。泉の心理をリアルに考察すれば、失踪を決めて自宅を出たとき、夫が追いかけてくるのではないかという恐怖心よりも暴力の支配から逃れられたという安堵感のほうがはるかに大きかったと思います。なぜもっと早く決断しなかったのかと、思わず笑みがこぼれてくるほどの解放感があったはずです。

泉にしても、鉄治にしても、だいたいこのふたりはものの考え方がネガティブです。ありもしない恐怖に怯えて絶望ごっこをしているような感じです。お互いに惹かれ合っていくのはけっこうですが、わが身を削ってでも相手の幸せを考えるような展開にならないと感動のドラマにはなりません(そういう小説ではないか)。

感動のドラマ……なぜこんなことを考えてしまうかというと、どうも最近はテレビドラマの観過ぎなのかもしれません。テレビドラマに感動を期待するあまり、その延長線上で小説も読んでしまいます。もし、鉄治が泉の父親かあるいは兄だったら、泉には吉彦と正式に離婚することを勧めると思います。中途半端に逃げるのではなく、きっちりと絶縁するのです。人間には誰だって幸せになる権利があります。泉がどうすれば幸せになれるのか、鉄治が泉のことを親身になって考えていれば、泉が現状に甘んじていることに反省を促すはずです。陽のあたる場所で堂々と生きていく権利をそう簡単に放棄していいはずはありません。

 二人は、崖から転がり落ちて辿り着いた、暗い谷底に息をひそめて生きている。互いが手を伸ばせば届くところにいることを認め合い、許し合い、それどころか、そのことで心慰められている。

こういうのが要するに「絶望ごっこ」なんです。泉にしても、鉄治にしても、自分はともかくとして、相手を「暗い谷底」から救い出すにはどうすればいいかを真剣に考えてもらいたいです。
  
   
鉄治から何の連絡もないまま、金曜日の夜がやってきました。

 その晩、遅くなってから、泉は意を決して鉄治の携帯に電話をかけた。

鉄治は泉からの電話を待っていました。泉がもう少し逡巡していれば、しびれをきらして鉄治のほうから電話をかけてきたと思います。何をやっているのでしょうか、この二人は。
 
7月の第3月曜日は海の日で祝日です。泉も鉄治も連休になります。鉄治は泉に「今度の日曜日はゆっくり夕食でも」と提案しました。要するに泊まっていきなさいということです(違うかな?)。
 
この夕食については、泉が材料を買っていって腕によりをかけて(?)作ることになりました。

 先のことを、これほど心躍る思いの中で考えるのは久しぶりだった。明後日は何を作ろうか、と泉は考えをめぐらせた。

こんなことでウキウキするようでは、泉さんの「世捨て人」も当てになりませんね。本物の世捨て人になるには百年早いです。

 本当にピクニックの予定でもたてているような気分になった。忘れていた幸福感、浮き足立つような感覚が泉の中に甦った。

これでは単なる普通の人です。

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