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2010年7月 6日 (火)

小池真理子の「無花果の森」・第190回(7/3)まで

「指名手配」について調べてみました。フリー百科辞典のウィキペディアによれば、指名手配とは、「逮捕状が出ているが、被疑者の所在が不明である場合に行うものであり、通常は全国の警察に手配する」となっています。

1.逮捕状が出ている
2.被疑者の所在が不明

この2条件が満たされたときに指名手配となるようです。ただし、この指名手配は、「国家公安委員会が定めた警察内部の取り決め(行政規則)」にすぎません。「一般人に当然に公表されるという法的効果を持つわけではない」とのことです。つまり、顔写真が公表されて公開捜査が行われるのは、指名手配の中のごく一部の事件(殺人や放火などの凶悪事件)だけです。

鉄治のケースは直ちに逮捕状が出されて、全国に指名手配されたことはほぼ間違いないと思います。ただ、覚せい剤不法所持そのものは殺人や放火に比べれば微罪です。「発見したら捕まえてください」程度の感じでそれほど熱心には捜査しないと思います(警察だって忙しい)。

凶悪事件の場合、公共施設などに被疑者の顔写真や氏名などを配布して一般市民にも協力を呼びかける公開捜査という手法が取られますが、それでも犯人を捕まえるのはそれほど簡単ではありません。鉄治は顔写真が公表されて公開捜査が行われているわけではないですから、そんなにビクビクして潜伏していなくても大丈夫ですよ(たぶん)。

三浜作次郎にしてみれば、身辺をウロチョロするうるさいハエ(=鉄治)を追い払った程度のことで、鉄治が警察に捕まろうが捕まるまいが、目の前からいなくなってくれれば目的は達したことになると思います。

気になるのは、日経新聞に掲載されている「あらすじ」です。日経新聞の「あらすじ」によれば、鉄治は「警察幹部が絡む事件で無実の罪を着せられ」となっています。覚せい剤不法所持に警察幹部がどう絡んでくるのか今のところまだ不明です(大道ひなの父親が警察幹部なのだろうか?)。
  

さて、話の様子から鉄治に妻子はいないだろうと想像していましたが、鉄治はバツイチでした。離婚したのは2年前です。中学1年の娘が一人いて母親が引き取っています。このパターンは、一度離婚している新谷吉彦と同じです。ただし、離婚の原因が違います。新谷吉彦は妻の浮気が原因でしたが、塚本鉄治は仕事のやりすぎ(?)が原因です。鉄治としては、泉を前にして、夫(つまり自分)の浮気が原因で離婚したとは言いにくいでしょう。ここは仕事のやりすぎということにしておきましょう(体を張って仕事をしていたら浮気と勘違いされた?)。

 

 耐えがたいような外の烈しい雨を耳にしながら、泉はふと、鉄治と二人、ホームレスになっている自分を想像した。

泉には何かと妄想癖があるみたいです。泉はだんだん上の空になってきて、鉄治に訊かれても正直には答えられないようなやらしいことを想像していました。

小説には書かれていませんが、烈しい雨の音を聞きながら、自分の世界に没頭して沈黙している泉に、けげんに思った鉄治が問いかけるシーンがあってもよかったです。

「泉さん」
「えっ?」
「何を考えているのですか」
「いえ、あのその……」

   

さて、泉が鉄治のマンションから天坊八重子の長屋に戻ったのは、六時過ぎでした。雨は依然として烈しく降っています。

 その日、帰りがけ、鉄治と次に会う約束をしなかったことが気になっていた。事情をすべて打ち明けて、精も根もつき果てたのか、次に会う約束のことなどに頭がまわらなかったようだ。鉄治は別れ際、何も言わなかった。泉も次の約束には触れなかった。

泉も鉄治も日曜日に特に用事があるわけではありません。泉が、次の日曜日の二時に、まるで約束があったかのように鉄治のマンションを訪れれば、鉄治がドアを開けて、まるで約束があったかのように「お待ちしていました」ということになるのではないでしょうか。

 鉄治と交わす約束が、その光を生み出していた。次の日曜にまた彼と会う、という約束。交わされた約束は、一つのささやかな希望でもあった。泉は今の自分が、ただそれだけのことを支えにし、生きるよすがにしようとしていたことを知った。

約束してないから行かない、などと野暮なことは言わないで、会いたいという気持に正直になることが大切です。約束なんか必要ありません。押しかけてしまいなさい(人ごとだと思って)。

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