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2010年9月 6日 (月)

小池真理子の「無花果の森」・第225回(8/14)まで

第220回(8/9)

二人が黙り込むと、遠い雷鳴が聞こえてきた。すでに七時をまわっていた。夕立と呼ぶには遅すぎた。近づいているのは、夏の始まりの雷雨のようだった。

久しぶりに真夏の太陽が照りつけていたこの日も、やっぱり雨になってしまいました。遠くで雷鳴がとどろく雷雨の中で泉と鉄治は「接吻」をしました。

「キス」というと挨拶代わりに軽くチュッという感じですが、「接吻」というと激しくブッブチュ~ッという感じです。わが国における「接吻」という文化について、「日本接吻大全」というサイトでは次のように解説しています。

我が国には古来から「接吻」という文化がある。
そして我が国にとって「接吻」とは、とても重要な意味を持つ。
すなわち「接吻」とは、人前ですることははばかられ、物陰に隠れて行われる二人だけの神聖な儀式である。
お互いの愛を確かめあい、絆を深めあい、あるいは他の異性と「接吻」する事で刃傷沙汰や裁判沙汰に発展する事もある。
そう言った意味で、欧米の「キス」とは比べられないほど奥ゆかしい、美しい文化であると言えよう。

しかしその奥ゆかしさのせいか、「接吻」の仕方がわからない日本人が多い。
隠れて「接吻」をし、その事は口にもはばかられるので、誰にも教わる事ができないのである。
そのため、日本人は一人ひとりがこっそり「接吻」の仕方を考え、それを実行してきた。
結果、我が国には様々な「接吻」の型がある。
古くから伝えられているものだけで二十種、さらには近年発明されたものを含めれば数え切れない。
この「日本接吻大全」は、その接吻の型のうち「基本二十手」と「近代の接吻」を記すものである。

より詳しくは → http://members.jcom.home.ne.jp/0144968401/nikki.rog.nihonseppunntaizen.htm

どうでもいいか。

 

第221回(8/10)

雷鳴がどんどん近づいてきた。外で何かを烈しく叩くような音が聞こえた。いきなり始まった、どしゃぶりの雨だった。
 だが、ベットでは、一切が沈黙の中で進められた。互いにひと言も発しなかった。営みだけが、気が狂ったように深く熱く、続けられていった。

泉は失踪前に夫の吉彦から「バイタ」と罵られたことがありました(第145回)。残念なことに吉彦の予言(?)は的中してしまいました。泉は、部屋のどこかに吉彦が潜んでいて、鉄治との深く熱い営みをジッと見つめられているような気配を感じなかったでしょうか。

あるいは、

 「私のどこが薄汚いの」と泉は憎しみを込めた目で新谷を見返しながら、烈しく震える声で聞き返した。「薄汚いのはあなたのほうじゃないの」

このように吉彦に反論していたときのかつての泉が、肉欲に身をゆだねている今の泉を、悲しそうにジッと見つめている視線を感じたりはしなかったのでしょうか……。

 

第222回(8/11)

これまでの新谷泉(38)の足取りを復習しておきます。小説の中の現在は2009年(平成21年)です。
 
6月 7日(日) 夫・吉彦の暴力から逃れるために目黒の自宅を出る。
6月 8日(月) 東京駅から新幹線で西に向う。夜遅く岐阜大崖に着く。
6月 9日(火) 軽食喫茶「ガーベラ」で家政婦募集の貼り紙を見つける。
6月10日(水) 老画家・天坊八重子のところで住み込みの家政婦となる。 
6月24日(水) 番外地横丁のバー「ブルー・ベルベット」で鉄治に遭遇する。
 
7月 3日(金) 鉄治に電話をする。
7月 5日(日) 鉄治のマンションを訪問(1回目)
7月12日(日) 鉄治のマンションを訪問(2回目)
7月17日(金) 鉄治に電話をして3回目の訪問を約束する。
7月19日(日) 鉄治のマンションを訪問(3回目)。泊まる。
7月20日(月) 祝日(海の日)

 
今は7月23日(木)です。暑い夏の日が続いています。長屋では天坊八重子が何か冷たいものを持って来いとダダをこねています。困った婆さんです。

たらみのフルーツゼリーを冷凍庫で凍らせるとフルーツシャーベットになります。猛暑にはこの冷凍フルーツゼリーが最高です。あと、こんにゃくゼリーも冷凍するおいしいです。天坊八重子に食べさせてやりたいです。

  

第223回(8/12)

天坊八重子はカップ入りの氷いちごを食べながら、最近の泉の不審な(?)行動について問い質しはじめました。

 「ここんとこ、日曜になると、いつも出かけるね」

ドキッ!!泉は「そうですね。せっかくいただいているお休みなので」(汗)と、平静を装っていましたが、悪いこと(?)はできないものです。天坊八重子はすぐに核心を突いてきました。

 「こないだは夜も戻らなかったみたいじゃないか。ついこの前だよ。連休だったときさ」

なんと初めての朝帰りもバレていました。どう答えようかと泉が言葉を探していると、八重子は「別にどうだっていいんだよ」と言いながらも興味津々です。

  

第224回(8/13)

 1.新しい男ができた
 2.昔の男とヨリが戻った

天坊八重子はこのどちらかではないかと考えました。ただ、泉の性格や日ごろの生活ぶりから見知らぬ土地ですぐに新しい男ができるとは考えにくいです。だとすれば、昔の男とヨリが戻ったと考えるのが順当なところです。

 「こんな街で、休みの日に行くところなんざ、たかが知れている。なのに、朝帰りしたとなれば、そりゃあ、あんた、あたしだって、いろいろ想像くらいするさ」

 

第225回(8/14)

 「男なんだろ?」と八重子は、眼鏡の中の目を若い女のそれのように大きくし、上目づかいにじろりと泉を見た。「あたしの勘じゃ、そいつが原因で、あんた、いろいろ面倒ごとを起こして逃げてきた。違うかい」

ここで泉は考えました。八重子の誤解をうまく利用すれば、核心(?)から話を逸らすことができるかもしれません。

 「私、夫から逃げてきたんです。暴力をふるわれて、どうしようもなくて」
 「ほう」と八重子は、心底、馬鹿にしたように言った。「安手のドラマみたいな話だ」

泉は、とりあえず八重子の関心を夫の暴力に向わせようと考えました。そうすれば「朝帰り」についてはあまり深く追及されずにすみます。ひとつの秘密を隠すために、もうひとつの秘密を明らかにする……陽動作戦です。

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