« 西東京市議会議員選挙 開票結果(開票率100%) | トップページ | 教育テレビのアニメ「バクマン。」を観る »

2010年12月29日 (水)

角田光代の「空の拳」・第11回(12/28)まで

第10回

鉄槌ジムは地下にあるらしく窓がありません。においがこもっているし、頭がガンガンするようなやかましい音楽が絶えず流れています。さらに熱気と湿気も充満しています。空也は原因のわからない圧迫感(=全体の雰囲気が醸しだしている圧迫感)から鉄槌ジムを出たくてたまらなくなってきました。それでも一応取材で来ているわけだし、イヤになったからといって帰るわけにもいきません。

「望がマスやるんで見てったらどうスか」と、有田に言われ、有田といっしょに空也はいやいやリング下にはりついた。

「マス」というのは「マスボクシング」の略です。「シャドウボクシング」や「スパーリング」という言葉は一般の人でも知っています。しかし「マスボクシング」は実際にジムで練習したことのある人でないと知らないと思います。もちろん空也は知りませんでした(わたしも知りませんでした)。

「はてなキーワード」は、この「マスボクシング」を次のように解説しています。

ボクシングにおける練習方法の1つ。試合形式をとりながらパンチを当てずに打ち合う。通常は14オンスのグローブを着用して行う。技術の確認やタイミングのとり方、距離感などを身体に覚え込ませる。スピードや正しいボクシングフォーム、動態視力などを養うのに最適。「マス」「目慣らし」とも言う。

マスボクシングの何たるかを知ろうと思って調べていたら、YOU TUBEでかわいい(?)女の子がマスボクシングをやっている動画を見つけました。

マスボクシングで寸止めにするつもりのパンチが当たってしまったり、スパーリングで当てるつもりのパンチがよけられてしまったり、素人目にはマスボクシングなのかスパーリングなのか、ちょっと分かりにくい感じがします。

なぜ「マス」というのかについては、「mathematical」の略ではないかという説があります(「mathematical」には「数理的な」という意味のほかに「正確無比な」という意味がある)。でも、本当のところはよくわかりません。

ほかの男たちがリングを下り、なかには立花望ともうひとり、ランニング姿の男が残される。

いよいよマスボクシングの始まりです。

ランニングの腕がのびると、望は踊るようによけてパンチを出す、相手が後じさり、望が追いかけ、望の右腕を相手がよける。たしかにパンチは当たらない。特殊なダンスをしているように空也には見える。望とランニングシャツと、どちらが強いのか、どう違うのか、まるでわからない。

人間はわからないものを見ていると退屈して飽きがくるものです。眠くなったり、心ここにあらずで関係のないことを考え出したりします。

延々と繰り返されるマスボクシングを見飽きた空也は、リングに背を向けて壁に並んでいる名札をぼんやり眺めはじめました。名札は階級別に分かれていました。ボクシングの階級は、プロが17種類、アマチュアが13種類あります。

ボクシングの階級 → http://www.h3.dion.ne.jp/~toomo/html/n-kaikyu.html

空也はライト級のところにタイガー立花の名札を見つけました。そのとき突然空也は変なことを思い出しました。タイガー立花が着ていたTシャツにはディズニーのキャラクターがプリントされていました。シマリスのチップとデールのうちデールのほうです。チップとデールの見分け方は「チョコ(チップ食べて、鼻血()がデール」です。つまり鼻が黒いのがチップで、鼻が赤ければデールです。空也はディズニーのキャラクターにはけっこう詳しいみたいです。

第11回

空也はマスボクシングを見るのに飽き飽きしてもう帰りたくてしょうがなくなってきました。そんなときです。トレーナーの有田正宗が飲みに誘ってくれました。

 「那波田さん(空也のこと)、ぼく、八時であがりなんですけど、よければ軽く、いきませんか」
 有田がにっと笑って、グラスを傾けるジェスチャーをした。助かった、と思った。

こういうのを地獄で仏というのでしょうか。空也は、臭くて、うるさくて、熱気と湿気が充満している地下のジムからようやく解放されました。

今は6月下旬か7月上旬です(たぶん)。そろそろビールがうまくなる季節です。有田が連れていってくれた店は、空也が学生時代によく通っていた馴染みの焼き鳥屋でした。安くてうまい店です。

ビールを飲みながら、有田は空也にしばらくジムに通うことを勧めてくれました。この有田正宗というトレーナーは本当に優しくていい人です。気安くなんでも訊けるし、訊けば親切に答えてくれます。新米の空也がしばらく通っていろいろ質問をするにはとても貴重な存在です。本来なら「よろしくお願いします」と頭を下げるところなんですが、空也は内心鉄槌ジムを嫌がっています。

どうせ通うなら「地上階にあって、窓が広くて、陽がさんさんと入って、くさくなくて、もっと静かで、和気藹々としたジムがいい」などと、有田が聞いたら気を悪くしそうなことを考えていました。

空也はボクサーの望(タイガー立花)についていろいろ質問しようとしました。有田によれば、望はこれからどんどん強くなりそうな筋のいい選手らしいです。しかしボクシングの専門的なことを説明されても空也にはまだわかりません。そこで質問の矛先を変えて鉄槌ジムのオーナーの小暮修造について訊いてみることにしました。

 「さっきの、小暮さんって、ジムのオーナーですよね。やっぱりボクサーだったんですか」

|

« 西東京市議会議員選挙 開票結果(開票率100%) | トップページ | 教育テレビのアニメ「バクマン。」を観る »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/122218/38257689

この記事へのトラックバック一覧です: 角田光代の「空の拳」・第11回(12/28)まで:

« 西東京市議会議員選挙 開票結果(開票率100%) | トップページ | 教育テレビのアニメ「バクマン。」を観る »