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2011年1月20日 (木)

角田光代の「空の拳」・第25回(1/20)まで

八月に入っても空也のジム通いは続きました。しかし空也はスタミナがありません。すぐバテてしまいます。なかなか上達しません。

シャドーを三ラウンド、サンドバッグを二ラウンドしかやっていないのに、Tシャツは土砂降りの中を歩いてきたように濡れている。ボックスタイムを告げるアラームが鳴るが、いったん座った空也はもう立ち上がれない。座ったまま、動き始める練習生たちをぼんやり見る。

練習が終わってから空也は、トレーナーの有田正宗とジムで知り合った坂本秀志路と坂本の友人の中神真の4人で、近くの居酒屋でテーブルを囲みました。

坂本秀志路は21歳で大学三年生です。北海道の実家から上京してきて空也の卒業した大学に通っています。空也の後輩です。空也は坂本にたいして、先輩としての優越感とそこはかとない親しみを感じたようです。坂本は大学の近くのアパートに下宿しています。

坂本がバイト先で知り合ったという中神真も21歳です。鉄槌ジムには小学1年生のころから通っているボクシングマニア(?)です。一応プロのボクサーですが、特に才能があるわけではなく、まだ六回戦です。ビルの清掃、居酒屋、チラシ配りなど、精力的にアルバイトをこなしながらボクシングを続けています。中神は東京に実家があるのに一人暮らしをしているみたいです。

 
プロのボクサーというのは、日本ボクシングコミッション(JBC)が実施するプロテストに合格して「ボクサーライセンス」が交付された選手のことをいいます。試合をすることによってファイトマネーがもらえます。プロテストの内容は筆記と実技があります。

男女とも筆記は主に規則に関する平易な問題で構成されたペーパーテスト、実技は受験者同士による、通常2Rのスパーリング形式(ヘッドギア着用、男子は2分30秒1R-インターバル30秒)で行われ、ワンツーパンチを基本とする攻撃や、ガードを中心とする守備の技能が備わっているかを審査する。このうち実技審査のスパーリングは、あくまで技能の完成度を見るものであるため、対戦中に不利であったからといってかならずしも不合格であるとは限らない。逆に、片方の技能水準が余りにも低すぎて開始早々にノックダウンしてしまったような場合、ノックアウト勝ちした側は技能水準が本来の及第レベルに達していなくても合格するケースもある。

詳しくは → http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%83%BC

 
ボクシングのライセンスにはA級、B級、C級の区別があります。最初に交付されるのは原則としてC級のライセンスです。いわゆる四回戦ボーイというのがこれです。C級ライセンスのボクサーが四回戦で4勝(引き分けは1/2勝)するとB級に昇格できます。B級は六回戦です。B級ライセンスのボクサーが六回戦で2勝(引き分けは1/2勝)するとA級に昇格できます。A級になれば八回戦以上のすべての試合に出場できるようになります。なお、B級の選手が四回戦に出場したり、A級の選手が四回戦や六回戦に出場してもいいことになっています。
 
 
坂本と中神はあまりにも仲が良いので、有田は二人の関係を疑っています。本気で疑っているのか冗談なのかはわかりません。

「つきあっているんだから暮らせばいいじゃん、いっしょに」有田がからかうようにいうと
「やめてくださいよー」二人は声を揃えた。

この「やめてくださいよー」は、「本当のこというのやめてくださいよー」なのか、「悪い冗談はやめてくださいよー」なのか……。
 
 
空也たちが居酒屋を出たのは十二時近くになってからでした。中神は坂本に、「泊まっていい?」という話をしています。この二人が何となく肌に馴染むのか、空也もいっしょに泊まりたくなってきました。

酔って気分のいい空也は彼らを振り向き「ね、ぼくもいっていい?」と訊いた。二人は顔を見合わせ、「いいですけど」坂本が戸惑ったように笑いながら答えた。
「わー、三Pだ」有田が馬鹿笑いをする。

三Pというのは三人でプレイする性戯のことです。空也はいっしょに泊まったりして大丈夫なんでしょうか。まあ、冗談だとは思いますけど……。

空也は坂本の下宿で坂本と中神からいろいろ話を聞きました。坂本はともかくとして、中神は一応プロです。ただ中神はすでに自分の限界を感じていて、新人選手としては別格のタイガー立花をさかんに賞賛します。

「そんなにすごいの、タイガー立花」
「新人王勝ち抜いているし。ぼくはあの人はいくと思うな。東西でも勝つと思う」

ボクシングの全日本新人王というのは次のようにして決定されます。まず東日本・西日本・中日本・西部日本各地区で各階級の代表決定トーナメントが行われます。そして東日本地区以外の3地区の新人王は「西軍代表」を決定するトーナメントを行います。最後に東軍代表(=東日本新人王)と西軍代表が全日本新人王決定戦を行います。「東西」というのはこの最後の決定戦のことです。

空也はボクサーというのはハングリー精神というか、餓えた獣のような肉食系のやつがなるものと思い込んでいました。ところが坂本や中神にはそういった要素がまったくありません。どちらかといえば草食系です。まるでお遊戯感覚でボクシングをやっているみたいです。空也は内心で「こういうボクサーを取材しても記事はかけそうもない」と落胆していました。

猫パンチでもボクシングをはじめた動機に関しては自分の方がマシだと多少優越感を感じていた空也でしたが、坂本と中神の二人は、空也が寝ているうちに起き出してロードワークをやっていたりします。これには寝ぼけ眼の空也も一本参ったようです。文学青年は朝が弱いからね(一般的に)。

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