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2011年1月31日 (月)

角田光代の「空の拳」・第33回(1/29)まで

「あいつ、わざと連打させてカンガルーパンチしやがった、いやまぐれか?」鹿野はつぶやき、「へっ、カンガルー?」空也は訊くが、それには答えない。

カンガルーパンチというのは、ロープに追い詰められたときにロープの反動を利用して放つパンチです(たぶん)。いかにも威力がありそうです。タイガー立花は、1ラウンドのもたつきがウソのように、2ラウンドでKO勝ちしました。

 立花は相手方のトレーナーにも矢部にも挨拶することもなく、会場全体をねめつけるように見渡して中指を立て、威嚇するように顔をしかめてリングを下り、さっさと帰っていった。

タイガー立花は自分の実力をひけらかしている傲慢で生意気なボクサーを意識的に演じているようにみえます。もっとも、スポーツというのは実力がすべてのところがあります。あらゆるマイナス要素を一発のパンチでプラスに変えてしまうこともできます。なにはともあれ、空也は華のあるタイガー立花のボクシングにすっかり魅了されてしまったようです。

 

七時を少し過ぎてすべての試合が終わりました。空也は鹿野編集長の飲みにいくかという誘いを断って、鉄槌ジムの控え室に挨拶しにいくことにしました。

「そういえば、クーちゃんってジム通いはじめたんでしょ?すごいわねえ。本気で記事書くのねえ」帰り支度をしながら倉田真喜が言う。

空也は編集部には内緒で鉄槌ジムに通っていたはずなんですが、なぜか倉田真喜はそのことを知っていました。やっぱり内緒だと思っていたのは本人だけだったみたいです。

空也は鹿野編集長と倉田真喜を見送ってから控え室に向かいました。通路も控え室も人でごった返していました。1人では心細かったのか、だれか知っている人はいないかとキョロキョロあたりを見回していると、背後から坂本と中神に声をかれられました。

「なんか飲みにいくみたいですよ。いきますよね」坂本が言う。
「いくいく、っていうか。ぼくもいっていいのかな、いいんだよね」
 空也ははしゃいで言った。

どうやら鉄槌ジムの懇親会(?)があるみたいです。同じ飲み会でも鹿野編集長とは御免だけど絡まれる恐れのない坂本や中神となら空也も大歓迎みたいです。

 

空也の意識の中ではすでにタイガー立花がアイドルスター並の存在になっていました。鉄槌ジムの懇親会に参加すればタイガー立花を身近で見ることができます。雑誌の編集者という立場で親しく言葉を交すチャンスだってあるかもしれません。

 

タイガー立花はリング上の派手で憎々しげなパフォーマンスとは裏腹に、普段はマナーをわきまえた明るい好青年です。おっかない悪人みたいでいて実は優しい……女性はこういうギャップに弱いものです。それにタイガー立花はボクサーには珍しくまともな顔をしています。

空也にそういう趣味があるのかどうかわかりませんが、空也がタイガー立花を見ている視線は明らかに女性のそれです。やたらと身体に触りたがるし……まあ、タイガー立花は男が惚れるいい男ということにしておきます。

 ようやく空也が立花と話すことができたのは、十一時すぎ、座敷を埋めていた三分の二ほどの人が帰ったあとだった。

空也は雑誌の編集者というよりもまるで熱烈なファンであるかのように立花望に語りかけていました。

「あのさ、新人王まで望くんを追いかけてもいいかな?ほくさ、新人王の決定戦のあとで、ばーんときみの特集記事書きたいって今日思ったんだよね、許可出るかわかんないけど、でも、出るっていうか出させるよ。だからこれからきみの試合はぼくぜんぶ見る!」

立花は関西の出身なのか言葉に少し関西弁のなまりがあります。空也が酔った勢いで熱く語りかけるもんだから、ニコニコしながらもやや困惑気味です。

「何言ってるんですか、新人王だなんて、これから準決勝もあるし、まだマジ新人やから」

ふたりのやりとりを聞いていたトレーナーの有田正宗が空也と立花のあいだにわりこんできました。

「立花のこと、今日の試合も含めてなんか書くんだよね?そしたらさ、できるだけ悪く書いてよ。すっごい態度悪い生意気な糞野郎なんだよ、こいつの正体は」

ボクシングも選手の背景に何か物語があったほうが盛り上がります。どうやら鉄槌ジムはタイガー立花をふてぶてしい悪役として売り出そうとしているみたいです。

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2011年1月30日 (日)

アニメ「バクマン。」・第17話「天狗と親切」を観る

アシスタントを引き受けた真城最高は吉祥寺にある新妻エイジの仕事場にやってきました。新妻エイジは最高がアシスタントに来ることは知らされていませんでした(アシスタントに関しては編集の雄二郎さんに「お任せします」と言ってある以上、誰が来たって文句はあるまい)。
 
 
エイジのところには最高のほかにアシスタントが2人いました。

ひとりは中井巧朗(なかいたくろう)という33歳のベテランです。中井さんは背景を処理するアシスタントとしては達人の域に達しています。しかし、自分のマンガが描けません。長くアシスタントを続けていると自分のマンガを描く意欲が薄れてしまうのかもしれません。それでも気持だけは連載マンガ家になりたいと思っているみたいです。中井さんは自戒の念を込めて最高に忠告しました。

  「(マンガ家になりたかったら)絶対アシスタントなんて長くやっちゃダメだぞ」
 

もう1人のアシスタントは福田真太(ふくだしんた)という生意気そうな18歳の少年です。手塚賞に二度入選していて、連載のチャンスを虎視眈々と狙っています。第16話で高木秋人が「オレたちより連載に近い新人を調べたんだけど軽く15人はいた」と言っていました。おそらく福田真太はその15人のうちのひとりです。(アシスタントだけでは食べていけないので)早朝のコンビニでバイトをしながら頑張っています。
 

連載マンガには「1位で当り前の1話、勝負の2話」という格言(?)があるそうです。新連載の第1話は巻頭カラーになるなど注目度も高いし、気合も入っている(?)ので1位になりやすいらしいです。で、そうしたアドバンテージがなくなる2話が勝負というわけです。

読者アンケートで新妻エイジの連載マンガ「CROW」も第1話は1位でした。しかし第2話は4位に落ちてしまいました。天才マンガ家の新妻エイジも人の子です。やっぱり自分のマンガの人気投票の順位は気になるみたいです。

一般的に考えれば、すでに固定ファンもいてアニメ化もされているような他の連載マンガと競い合って新人のエイジの「CROW」が2話目で4位というのは大健闘です。そこで最高が編集者みたいな感想を述べました。

 「普通は連載会議に3話ネームを出すけど、その3話はいくらでも時間がかけられる。だから4話目以降がきつくなるんだけど、新妻さんはその心配がない」

これは、エイジの場合は最初から考えないで描いているから4話目になったからといって急に作品の質が落ちる心配がない、という意味です。つまり4位前後の順位をエイジは今後もキープできると考えたのです。この最高の意見に福田真太が反論してきました。

 「このままだと順位は下がる。10週目にはボーダーライン、半年経てば打ち切りだ」

福田の意見は新人の連載マンガが辿った多くの前例を示唆しています。「考えないで描けばいいです」とうそぶいていた新妻エイジも、さすがに連載マンガを考えないで描き続けることに不安を感じていたようです。

ここで意外だったのは、天才肌の新妻エイジに人の意見に素直に耳をかたむける謙虚さがあったことです。「柔よく剛を制す」という言葉がありますが、新妻エイジは本能的にこの言葉の意味を理解しています。新妻エイジという天才は、ひょっとすると最高や秋人よりも柔軟性があって貪欲でしたたかかもしれません。

新妻エイジはどうすれば自分のマンガが面白くなるか、最高と福田に意見を求めました。

 「わかったです。締め切りはあと2日の5話から描き直します。面白くなるよう手伝ってください」

新妻エイジはほぼ完成していた5話の原稿を破棄して全面的に描き直すつもりです。いつのまにか(編集者抜きの)作戦会議(?)がエイジの仕事場で始まっていました。福田はエイジの「CROW」をボロクソに批評しました。

 1.新妻くんはプロとしての自覚がなさすぎる
 2.自分が楽しく描きたいだけなら同人誌で描け
 3.読者を楽しませることを第一に考えろ
 4.「CROW」には読者に訴えかけるものがない
 5.ただかっこいいだけではすぐ飽きられる

もう言いたい放題です。でも、どんな辛口の批評にもエイジは素直でした。あんなに嫌がっていたネームもきちんと描くようになりました。面白いマンガを描くためには、面倒でも一度ネームを描いてじっくり検討してみる必要があると悟ったようです。もっともエイジの場合は30分もあれば連載一回分のネームが描けてしまうのですが……。

エイジは編集の雄二郎さんにも懺悔(?)することにしました。天才があんまり謙虚だと面白くないんですけど……いや、その意外性がかえって面白かったともいえます。

 「雄二郎さん、今まで生意気言ってごめんなさい。これからは打ち合わせします。ネームも描きます」

だって。

 
担当の雄二郎さんはどうして福田真太や真城最高を新妻エイジのアシスタントに選んだのでしょうか。これは、(編集者の言うことなんて聞かないエイジも)同世代でライバルの福田や最高が言うことなら、たとえ編集者と同じ内容の意見でも素直に受け入れると考えた高等戦術です(たぶん)。雄二郎さんはタイプの違う才能をエイジのところに送り込むことによって、野生児のようなエイジに考えてマンガを描くことの大切さを理解させようとしたのです。

最高はエイジから何かを盗むつもりでアシスタントを引き受けたのですが、最高や福田から何かを盗んだのはエイジのほうでした。

親身になってアドバイスをしてしまった福田真太が照れ隠しのように言いました。

 「俺たちでジャック(のマンガ)を変えていくんだ。ライバル(の新妻エイジ)にこんなところでコケて欲しくない」

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2011年1月26日 (水)

角田光代の「空の拳」・第29回(1/25)まで

8月19日は那波田空也の誕生日です(勝手に決めた)。空也は出版社に就職して今年で3年目になります。大学は1年留年しています。浪人はしていないものとすると、8月19日で26歳になりました。「あんたそれは違うよ」と言われるまで空也は26歳ということにしておきます。

空也は鉄槌ジムに通っていることを編集部の誰にも話していません。秘密主義なんですね。きちんと話をして入会金や会費を会社の経費で出してもらえばいいのにね。ドラマで空也を誰かが演じるとしたらこれはもう二宮和也しかいません。イメージがピッタリ重なってしまいます。クーちゃん頑張れです。

さて、8月23日は東日本新人王準々決勝です。準々決勝でタイガー立花(鉄槌ジム)は矢部龍也(大塚ジム)と対戦します。会場は後楽園ホールです。空也はジムでチケットを買ってしまいましたが、この日のチケットはすでに「ザ・拳」の編集部で用意してくれていました。空也にはまったく記憶がないのですが、鹿野編集長によれば「その試合(タイガー立花の試合)、見て原稿書いておけっておれ、ずいぶん前に言ったよなあ」だそうです。

空也は鹿野編集長、倉田真喜と三人で後楽園ホールに向かうことになりました。空也の会社は四ッ谷にあります(勝手に決めた)。後楽園ホールまでは、電車でもタクシーでも十分程度で行けます。

空也がボクシングの試合を生で観戦するのはこれが初めてです。しかもリングに近い記者席での観戦です。ヘナチョコの空也が心の準備もなくいきなりボクシングの試合を観戦して大丈夫なんでしょうか。ショック死とまでいかなくても恐怖で失神(または失禁)してしまうかもしれません。

 試合開始は三時だった。バンタム級からウェルター級まで、七階級十二試合。東日本新人王戦の予選準々決勝である。ライト級のタイガー立花は五試合目だった。

観客席はほぼ満席です。空也は試合を観戦していて格闘技の臨場感に圧倒され、パンチが入るたびに顔をしかめて痛い痛いとつぶやいていました。まるで自分が痛いかのようです。いつまでたってもこの「痛い」をやめなかったので、いっしょに観戦していた鹿野編集長から「おまえ、痛い痛いってうるせえ」と注意されてしまいました。そうかと思えば、空也はいつのまにか洟を垂らして泣き出していました。これは恐怖の涙です。世話好きの倉田真喜がそっとハンカチを渡してくれました(みじめ)。それでも何とか失禁は免れたようです。

さて、いよいよタイガー立花の登場です(タイガー立花は五試合目ではなく四試合目でした)。

 驚いたことにタイガー立花は、三年ほど前に流行ったホラー映画に出てきた死に神のマスクをはめ黒い衣装を着て、プッチモニの曲をバックに赤コーナーに登場した。

なんだか派手なパフォーマンスです。新人のくせに生意気です。でも、それだけ自分の強さに自信があるのかもしれません。

「三年ほど前に流行ったホラー映画」というのは1997年8月に日本で公開された「スクリーム」のことです。

この映画では10代の若者たちが描かれる。そして謎の殺人鬼が現れたとき、映画マニアの彼らは「スプラッター映画のお決まりのパターン」を会話の中で紹介し、情け容赦なく批判する。そして若者たちはそのパターンに、時には擬えられ、また時には裏切られながら一人ずつ殺されていく。この絶妙な設定によって、すでに飽きられていたスプラッター映画を1990年代半ばに復活させることに成功した。

なお日本での公開は、1997年6月に予定されていたが、当時起こった神戸連続児童殺傷事件の影響のために公開延期となる。その後、事件は解決し、1997年8月23日に正式に公開された。

詳しくは → http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%A0

この映画の殺人鬼が死神のマスクを被っていたそうです。

それからBGMですが、これはヒップホップ調の「青春時代1.2.3!」と思われます。

ボクサーが登場するときのBGMなら「BABY! 恋にKNOCK OUT!」のほうがピッタリなんですが、残念ながらこの時点(2000年8月23日)ではまだ発売されていません。時代考証(?)を無視すれば、こちらの曲のほうがいいです。

   

タイガー立花は1ラウンドであっさりKO勝ちするのかと思ったら、対戦相手の矢部龍也もかなり強い選手みたいです。立花は試合中に右目の上を切ってしまい、血が流れ出しました。空也のところにも血が飛び散ってきます。壮絶な試合になってきました。

1ラウンドが終了したところで鹿野編集長が言いました。

「傷自体は問題ない。よくあることだ。ただ流血がひどくてストップがかかるとその時点で判定になる。今のままじゃ次は厳しい」

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2011年1月23日 (日)

アニメ「バクマン。」・第16話「壁とキス」を観る

最高と秋人は担当の服部さんから「週刊少年ジャック」が企画している「金未来杯」へネームを出すように勧められます。ネームの提出が20本程度、そのうち実際にエントリーするのは4、5本です。新人マンガ家の登竜門である「金未来杯」でグランプリを受賞すれば連載への道が開けます。

最高と秋人は喜んで「エンジェルデイズ」のネームを服部さんのところへ持っていきました。「エンジェルデイズ」は服部さんからアドバイスされた王道マンガの基本をしっかり押さえている自信作です。最高と秋人の進歩に驚きつつも、服部さんは次のように話しました。

「ぼくはあくまで編集者で、アドバイスできることは限られている。編集が言った以上のことをやってこれる人がマンガ家として大成する。マンガ家は必ず編集の上をいかなくてはならない!!

要するに(「エンジェルデイズ」は)よくできてはいるけど光るもの(=編集の上をいくもの)がないというのです。

結局「エンジェルデイズ」は「金未来杯」へのエントリーはなりませんでした。落選です。服部さんが気を利かせて夏の「NEXT!」に回してくれましたが、そこでも不採用でした。ただ、服部さんに限らず編集部は亜城木夢叶(最高と秋人のペンネーム)の将来性を大変高く評価していました。「エンジェルデイズ」には選考を担当した編集部員のコメントが寄せられているのですが、秋人などは落ち込んでいる二人を励ますために服部さんがコメントを書いたのではないかと疑ったくらいです。
 
 
亜豆美保は声優、高木秋人と真城最高はマンガ家、みんなが夢に向って頑張っている姿に見吉香耶は自分だけが取り残されているような寂しさを感じていました。そんな見吉が「自分も何か夢を」と考えて、突然作家になると言い出しました。美保と最高をモデルにしたケータイ恋愛小説を書くんだそうです。見吉に文才があるとは思えませんが、本屋でケータイの恋愛小説がベストセラーになっているのを見て思いついたようです。安易というか流されやすいというか、こういうところが見吉の魅力でもあります。見吉は作家よりも巨乳を活かしてグラドルを目指せばいいのにね。

最高(作者?)に言わせると、少年マンガに出てくる女の子にリアリティは必要ないそうです。少年マンガの女の子は本当の女の子でなくていいのです。女心の機微など知らなくても少年が考える理想の少女を描けばそれでいいらしいです。「バクマン。」に出てくる見吉香耶は、なるほど「少年が考える理想の少女」といえるかもしれません。
 
 
さて夏休みになりました。ジャック編集部の期待の大きさを知ったことがプレッシャーになったのか、秋人はスランプになってしまいました。面白いネームを描こうとしても、基本にとらわれすぎてどうしてもこれという何かが思いつきません。秋人は王道マンガを考えるに際して、計算しないと描けないのに計算すると描けないというジレンマに陥っています。
 
秋人は気分転換(?)に見吉をデートに誘いました。秋人の方から見吉を誘ったのはこれが初めてです。見吉は大喜びでしたが、秋人が壁に突き当たって悩んでいる姿を見ているうちに、自分が秋人の邪魔になっているのではないかと考えるようになります。

 
最高は秋人がネームを描いてくれないとマンガが描けません。仕事場で秋人のネームを待っているのですが、秋人からは何の連絡もありません。そんなとき、最高のところに夏休みの間だけでも新妻エイジのアシスタントをやらないかという話がきます。

新妻エイジは「週刊少年ジャック」で連載を始めた期待の大型新人です。最高たちよりも一歩も二歩も先を行っています。エイジのところへ行けばネームに悩んでいる秋人のためにも何かヒントがつかめるかもしれません。何ごとも経験です。最高は新妻エイジのアシスタントを引き受けることにしました。
  
最高が仕事場のマンションから自転車を走らせて帰宅する途中のことです。夜の公園に通りかかると、公園の薄闇の中に秋人と見吉のキスシーンが……。

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2011年1月20日 (木)

角田光代の「空の拳」・第25回(1/20)まで

八月に入っても空也のジム通いは続きました。しかし空也はスタミナがありません。すぐバテてしまいます。なかなか上達しません。

シャドーを三ラウンド、サンドバッグを二ラウンドしかやっていないのに、Tシャツは土砂降りの中を歩いてきたように濡れている。ボックスタイムを告げるアラームが鳴るが、いったん座った空也はもう立ち上がれない。座ったまま、動き始める練習生たちをぼんやり見る。

練習が終わってから空也は、トレーナーの有田正宗とジムで知り合った坂本秀志路と坂本の友人の中神真の4人で、近くの居酒屋でテーブルを囲みました。

坂本秀志路は21歳で大学三年生です。北海道の実家から上京してきて空也の卒業した大学に通っています。空也の後輩です。空也は坂本にたいして、先輩としての優越感とそこはかとない親しみを感じたようです。坂本は大学の近くのアパートに下宿しています。

坂本がバイト先で知り合ったという中神真も21歳です。鉄槌ジムには小学1年生のころから通っているボクシングマニア(?)です。一応プロのボクサーですが、特に才能があるわけではなく、まだ六回戦です。ビルの清掃、居酒屋、チラシ配りなど、精力的にアルバイトをこなしながらボクシングを続けています。中神は東京に実家があるのに一人暮らしをしているみたいです。

 
プロのボクサーというのは、日本ボクシングコミッション(JBC)が実施するプロテストに合格して「ボクサーライセンス」が交付された選手のことをいいます。試合をすることによってファイトマネーがもらえます。プロテストの内容は筆記と実技があります。

男女とも筆記は主に規則に関する平易な問題で構成されたペーパーテスト、実技は受験者同士による、通常2Rのスパーリング形式(ヘッドギア着用、男子は2分30秒1R-インターバル30秒)で行われ、ワンツーパンチを基本とする攻撃や、ガードを中心とする守備の技能が備わっているかを審査する。このうち実技審査のスパーリングは、あくまで技能の完成度を見るものであるため、対戦中に不利であったからといってかならずしも不合格であるとは限らない。逆に、片方の技能水準が余りにも低すぎて開始早々にノックダウンしてしまったような場合、ノックアウト勝ちした側は技能水準が本来の及第レベルに達していなくても合格するケースもある。

詳しくは → http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%83%BC

 
ボクシングのライセンスにはA級、B級、C級の区別があります。最初に交付されるのは原則としてC級のライセンスです。いわゆる四回戦ボーイというのがこれです。C級ライセンスのボクサーが四回戦で4勝(引き分けは1/2勝)するとB級に昇格できます。B級は六回戦です。B級ライセンスのボクサーが六回戦で2勝(引き分けは1/2勝)するとA級に昇格できます。A級になれば八回戦以上のすべての試合に出場できるようになります。なお、B級の選手が四回戦に出場したり、A級の選手が四回戦や六回戦に出場してもいいことになっています。
 
 
坂本と中神はあまりにも仲が良いので、有田は二人の関係を疑っています。本気で疑っているのか冗談なのかはわかりません。

「つきあっているんだから暮らせばいいじゃん、いっしょに」有田がからかうようにいうと
「やめてくださいよー」二人は声を揃えた。

この「やめてくださいよー」は、「本当のこというのやめてくださいよー」なのか、「悪い冗談はやめてくださいよー」なのか……。
 
 
空也たちが居酒屋を出たのは十二時近くになってからでした。中神は坂本に、「泊まっていい?」という話をしています。この二人が何となく肌に馴染むのか、空也もいっしょに泊まりたくなってきました。

酔って気分のいい空也は彼らを振り向き「ね、ぼくもいっていい?」と訊いた。二人は顔を見合わせ、「いいですけど」坂本が戸惑ったように笑いながら答えた。
「わー、三Pだ」有田が馬鹿笑いをする。

三Pというのは三人でプレイする性戯のことです。空也はいっしょに泊まったりして大丈夫なんでしょうか。まあ、冗談だとは思いますけど……。

空也は坂本の下宿で坂本と中神からいろいろ話を聞きました。坂本はともかくとして、中神は一応プロです。ただ中神はすでに自分の限界を感じていて、新人選手としては別格のタイガー立花をさかんに賞賛します。

「そんなにすごいの、タイガー立花」
「新人王勝ち抜いているし。ぼくはあの人はいくと思うな。東西でも勝つと思う」

ボクシングの全日本新人王というのは次のようにして決定されます。まず東日本・西日本・中日本・西部日本各地区で各階級の代表決定トーナメントが行われます。そして東日本地区以外の3地区の新人王は「西軍代表」を決定するトーナメントを行います。最後に東軍代表(=東日本新人王)と西軍代表が全日本新人王決定戦を行います。「東西」というのはこの最後の決定戦のことです。

空也はボクサーというのはハングリー精神というか、餓えた獣のような肉食系のやつがなるものと思い込んでいました。ところが坂本や中神にはそういった要素がまったくありません。どちらかといえば草食系です。まるでお遊戯感覚でボクシングをやっているみたいです。空也は内心で「こういうボクサーを取材しても記事はかけそうもない」と落胆していました。

猫パンチでもボクシングをはじめた動機に関しては自分の方がマシだと多少優越感を感じていた空也でしたが、坂本と中神の二人は、空也が寝ているうちに起き出してロードワークをやっていたりします。これには寝ぼけ眼の空也も一本参ったようです。文学青年は朝が弱いからね(一般的に)。

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2011年1月18日 (火)

2011年・冬ドラマを楽しもう

まずNHKの大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」です。主人公は浅井長政の三女でのちに徳川秀忠の正室になる江(ごう)です。主人公の江を演じるのは上野樹里です。とうとう上野樹里が大河ドラマのヒロインになってしまいました。上野樹里が時代劇というのも何か変な感じです。馴れるまでに少し時間がかかるかもしれません。

次女の初(はつ)役は水川あさみです。これで長澤まさみが出てくれば「ラストフレンズ」です。でも、残念(?)ながら長女の茶々(ちゃちゃ)は宮沢りえでした。宮沢りえってもう37歳なんですね。ちょっと年長すぎる気もしますが、年齢にリアリティを求めてしまうと大河ドラマは楽しめません。

織田信長役の豊川悦司がドラマに緊張感を与えていてカッコよかったです。信長が登場するシーンは空気がピーンと張りつめていて、鬼が出るか蛇が出るか信長が出るかという感じでした。でも、本能寺の変も近いし、織田信長は早々と退場してしまうみたいです。こんなにかっこいいのにね。
 
 
さてそれでは、各局の冬の連続ドラマについてです。今クールは謎に包まれたサスペンス調のドラマが多いような気がします。

まず、大穴から。大穴はテレビ東京の「最上の命医」です。「最上の命医」は小児外科医が主人公で「医龍」の二番煎じみたいなドラマです。二番煎じっぽいことに目をつぶれば十分楽しめるドラマだと思います。外科医という職業は、その外科医が優秀であればあるほど、見殺しにするくらいなら殺人を選ぶ……必ずそうするそうです。

「CONTROL~犯罪心理捜査~」は「ゲゲゲの女房」で大ブレイクした松下奈緒が主演の話題作です。「ホタルノヒカリ」、「SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」、「LADY~最後の犯罪プロファイル~」をごちゃ混ぜにした感じの変なドラマです。松下奈緒綾瀬はるかは超えられるでしょうか?

  

それではおススメのベスト3です。

1.「冬のサクラ」
タイトルが「冬のソナタ」みたいです。「冬のソナタ」と勘違いしてみてしまった人がいたかもしれません(いないか)。
このドラマの舞台は山形です(最初だけかもしれない)。主人公の稲葉祐(草彅剛)は、認知症で寝たきりになっている母親の介護をしながらガラス細工職人として働いています。祐は優しく真面目な性格で、愚痴をいうでもなく仕事をしながら献身的に母親の介護しています。この稲葉祐の生き様は、宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」を連想させます(特に「欲ハナク」というところ)。
そんな祐のところに記憶を失った身元不明の女性(今井美樹)が同居するようになります。かなり不自然な展開ですがドラマだからいいです。後にこの女性は東京で祐の弟・肇(佐藤健)が勤務している病院の院長夫人であることがわかります。まだ謎が多くて続きが気になるドラマです。「美丘」(林遣都吉高由里子)の大人版のようなドラマかもしれません。

2.「美しい隣人」
平凡な家庭の主婦・矢野絵里子(檀れい)は、夫の慎二(渡部篤郎)が単身赴任で大阪に行っているため、幼稚園に通う息子の駿(青山和也)とふたりでそれなりに幸せな日々を送っていました。
絵里子が住むマイホームは東京郊外の美空野町という新興住宅地にあります。新興住宅地といってもまだ住宅は疎らです。矢野家の周辺も隣りに一軒家があるだけで、あとは空き地です。きつねやたぬきが出そうなところです。
ただでさえ寂しいのに、お隣の夫婦が引っ越してしまったため、矢野家の隣りは空き家になってしまいました。離れたところに親戚や知り合いはいるものの、夜ともなれば、絵里子は幼い息子とふたりぼっちです。心細いこと限りなしです。
そんなある日、隣りの空き家に謎の女が引越してきました。女はマイヤー沙希(仲間由紀恵)という名前で、夫はアメリカに住んでいるとのことです。でも、何がどこまで本当なのかわかりません。沙希は絵里子の前では善意の隣人を装っていますが、何かよからぬことを考えています。仲間由紀恵が演じているマイヤー沙希はまるで幽霊のようで怖いです。すっかり沙希を優しい人だと思って信用してしまっている絵里子が憐れです。
この沙希という女は、大阪の絵里子の夫・慎二の前にも現れていました。慎二のことを内密に調べているのか、慎二と知り合いなのか、詳しいことはまだわかっていません。

3.「大切なことはすべて君が教えてくれた」
このドラマは高校教師の柏木修二(三浦春馬)が主人公です。ある日、修二が目覚めるとベッドに見知らぬ女が寝ていました。どうやら酔った勢いでやってしまったようです。いろいろ確かめたいことがあったものの、グズグズしていると学校に遅刻してしまいます。修二は女に部屋のカギを渡して部屋を飛び出しました。

修二は同じ高校の教師・上村夏実(戸田恵梨香)と婚約していて、二人の関係は学校中で知らない人はいません。いわゆる美男美女の似合いのカップルです。すでに婚約者がいるにもかかわらず、修二は見知らぬ女と関係を持ってしまいました。で、驚いたことに、その見知らぬ女というのは、なんと、4月から修二が担任をすることになった2年1組の生徒でした。佐伯ひかり(武井咲)です。ひかりは、一度でいいから憧れの先生に抱かれたかったのかもしれません。困るよね、こういうのって。

婚約者の夏実はまだ何も知れません。修二はどうするつもりなんでしょうか。いつまでも秘密にはしておけないのでいずれは話すことになるのでしょうけど、ひかりがバラしてしまうというパターンも考えられます。生徒にも父母にも教師にも信頼されている理想の教師・柏木修二の運命はどうなるのでしょうか?

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2011年1月17日 (月)

角田光代の「空の拳」・第21回(1/15)まで

ちょっとわかりにくいですが、第17回から第19回までは、空也が練習生として鉄槌ジムに通いはじめるよりも前の話です。いわば回想シーンです。新聞に掲載する原稿の順番を間違えたのではないかという気もしますが、まあ、回想シーンということにしておきます。
 
 
ボクシング雑誌「ザ・拳」は隔月刊誌です。6月に空也が「ザ・拳」の編集部に異動になってからしばらくは暇でした。次号の最終校了日は7月20日で、初めての編集会議が開かれたのは6月末になってからでした。編集会議といっても部員は4名(編集長も含む)だけです。

それまで、倉田真喜はデスクにレシピ本やスイーツ関連の雑誌を並べ、橋爪雅人はパソコンの前に座って三十分に一度は携帯電話をいじり、鹿野編集長は昼過ぎに酒のにおいをほのかに漂わせながらあらわれていたのに、(七月の)十日を過ぎると急にみな、ばたばたとあわただしく動きまわりはじめた。

空也は次号のために何人かの新人選手について、その紹介とインタビュー記事を書くことになっていました。おそらく誰も読まないどうでもいい記事です。それでも鹿野編集長からはダメだしされて「書き直せ」といわれてしまいます。

橋爪雅人や倉田真喜はボクシングなどに興味はなく、いつもヘラヘラしているのに、まじめに頑張っている空也よりもまともな記事を書きます。しかも、空也が一日がかりで書いた記事など、倉田や橋爪なら一時間もあれば書き上げてしまいます(たぶん)。

真面目な自分より不真面目な先輩の方が仕事ができる……こういう状況というのは新人にはつらいものです。無力感と自己嫌悪に苛まれて空也は落ち込んでしまいます。会社を辞めたくなるのはこういうときかもしれません。

空也は何度書き直しても鹿野編集長からダメだしされていまいます。で、最後は時間切れということでしぶしぶ空也の原稿が受け入れられました。

「ああもうしょうがねえ、子どもの作文を入れるのは忍びないが、文章が出るんだからおまえが恥をかくしかない」

これが鹿野編集長の捨てゼリフでした。空也としては「お前はもういい」と言われなかっただけでもありがたいと思わなくてはいけません。
 
 
校了を終えた深夜に近所の焼肉屋で恒例の打ち上げがありました。橋爪や倉田は気を遣って落ち込んでいる空也をなぐさめてくれましたが、愛のムチなのか単なる嫌がらせなのか鹿野編集長はあくまでも空也をいびります。空也は酔った鹿野から「給料泥棒」とまで罵られてしまいました。「あんたに言われたくない」と抗議したいところですが、今のところは当たっているだけに反論できません。空也はわが身のつらさを嘆いてやけ酒です。

空也は楽天的でポジティブな性格の青年ですが、何ごとにも真剣に取り組もうとする真面目さ(≒要領の悪さ)があります。また、プライドが高くて負けず嫌いでもあります。ボクシングジムに通って、頭と体でボクシングを理解した上で、鹿野編集長をぎゃふんといわせるような記事を書いてみせる……空也はひそかにそんな決意を固めていました。
 

2000年の7月20日(木)は「海の日」で祝日です。この日が「ザ・拳」の最終校了日でした。翌日、空也は同期入社で翻訳部署に配属されている田中芙美に自分の書いた文章を読んで欲しいと頼みました。そして、その3日後の7月24日から空也は練習生として鉄槌ジムに通いはじめたのです。この練習生としての初日の体験が第14回から第16回に描かれています。時間の流れとしては、第16回の続きが第20回になります。

 空也が次にジムにいったのは、一週間後の週末だった。土曜日の午後で、平日よりジムには女性の姿が目立った。先週いっしょだった坂本秀志路の姿もある。

鉄槌ジムのオーナーの木暮会長は空也を見かけると、「よう、本当にきたな」と、にっと笑いました。何か意味ありげな笑いです。

 「あんたもがんばって選手になって世界目指して、会社なんか辞めちまいな」と言って、木暮は豪快に笑った。

この木暮会長は、その豪放磊落な雰囲気が何となく鹿野編集長に似ています。鹿野編集長とは古くからの知り合いかもしれません。この二人は裏で、「うちのヘナョコがいくからよろしく頼む」「おう、まかしてくれ」などとニヤニヤしながら話しているのかもしれません。知らぬは本人(空也)ばかりなりです。

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2011年1月15日 (土)

教育テレビのアニメ「バクマン。」・第15話「デビューと焦り」を観る

編集の服部さんが言いました。

 「多くの新人マンガ家がヒットした王道マンガのいいとこ取りをした作品を持ってくるけど、ヒットしたためしがない」

王道のバトルマンガというのは計算してヒット作が生み出せるほど甘いものではないらしいです。それでも服部さんは最高(サイコー)と秋人(シュージン)に王道マンガを描く上で抑えておきたい基本を教えてくれました。

 1.まず大事なのは読者が自然に入り込める世界観を持ったマンガであること
 2.主人公がなぜ戦っているのか、共感できるはっきりした理由があること
 3.カッコよく迫力があり、何が起きているのかわかりやすいバトル
 4.主人公と同等かそれ以上の魅力的な敵キャラの存在
 5.できればかわいいヒロインがいるといい
 6.少し笑いがあって泣けるシーンがあるものは強い

こんなことはみんなわかっているはずなのに、なぜ新人にはなかなかヒット作が描けないのでしょうか。最後に服部さんは非常に重要なことをつけ加えました。

 「読者は目が肥えているから、(たとえば)計算で泣かそうとしても見透かされるんだ。あまり話を作っちゃいけない」

つまり、ヒット作というのは、無意識に描いているようでいて気がついてみるとヒット作としての条件を備えているような作品でなければならないということです。難しいですね。

ここで一度席を外した新妻エイジが戻ってきました。服部さんの話を聞いていた新妻エイジが言いました。

 「考えないで描けばいいです」

天才・新妻エイジはネーム(マンガ原稿を描く前に、えんぴつでコマ割りやセリフなどを描いたもの)がキライです。連載マンガの場合、ふつうは編集者にネームを見せてOKが出てから原稿にとりかかります。でも、新妻エイジはネームなんて意味がないと思っています。どうしてかというと、マンガを描いているうちにキャラが勝手に動き出してしまうため、完成したマンガはネームとは似ても似つかないものになっているからです。

考えないで描いていても勝手にキャラが動いて面白いマンガが描けてしまう……これが新妻流のマンガの描き方です。しかし、最高(サイコー)と秋人(シュージン)には新妻エイジの真似はできません。感性が違います。だったらどうすればいいのでしょうか。最高が到達した結論は、

 「計算しているが計算しているように見えないように計算して描く」

ということです。なんだかややっこしいことになってきました。言うは易く行う難しです。

それでも、新妻エイジは編集者や本人たちよりも早く亜城木夢叶(最高と秋人のペンネーム)がこれから頭角を現してくることを見抜いていました。

 「亜城木先生はぼくのライバルになると思います」

新妻エイジに言わせると、最高は「ものすごく活躍するマンガの主人公と同じ目をしている」というのです。澄んでいて中が燃えているあの目です。天才マンガ家は洞察力が違います。最高の目を見ただけでその情熱や力量を見抜いてしまったようです。
 

さて、話が変わります。真城最高にはメール交換だけしている亜豆美保(あずきみほ)という彼女がいます。亜豆は声優を目指していて、最高たちのマンガがアニメになったら亜豆がヒロイン役をやることになっています。で、その夢が叶ったら最高と美保は結婚する約束までしています。それまではメール交換だけの禁欲恋愛です。

ある日、亜豆から最高のところに、オーデションに受かって声優デビューが決まったというメールが来ました。まだチョイ役ですが、亜豆の可愛さは異常(秋人談)です。テレビに顔が出たりするとすぐに人気が出てしまうかもしれません。そうすればあっという間にヒロイン役が回ってきます。

最高は返信の「デビューおめでとうメール」に、つい心配になって、「亜豆さんが先にヒロインの役やるようになっても待っていてください」と付け加えてしまいました。亜豆からは冗談半分の怒りのメールが返ってきました。文面は以下の通りです。

  真城くんのバーカ!(笑)
  「待っててください」って
  真城くんらしくない!
  卒業式の日答えたのに私の事
  信じてないの?
  今度こんなメール来たら受
  信拒否だから(笑)
      MIHO

卒業式の日のことです。亜豆の家の前で、「(結婚を)いつまで、いつまで待ってくれますか」と、情けない顔をして問いかける最高に、亜豆は、「待ってる……ずっと待っている」と答えていました。

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2011年1月13日 (木)

姫野カオルコの「歌詞を精読」を読む

きのう(1月12日)の日経新聞夕刊の「プロムナード」というコラムで、姫野カオルコという人が、「いきものがかり」の「ありがとう」(作詞・水野良樹)について、

この歌の「まぶしい朝に、苦笑いしてさ」という部分はヘンじゃないでしょうか?
「苦笑い」というのは、心中の不快な気分を隠して無理に笑うことだ。

(中略)

愛する女性と朝を迎えたのならば喜ばしいはずだ。なのに翌朝に、この男は「苦笑い」しているのだ。

と、疑問を呈しています。ラブソング(?)なのに「苦笑い」はふさわしくないというのです。
  

それでは説明します。

貸本マンガ時代の貧乏だったころの話です。新婚だった水木サンは締め切りに追われてマンガを描いていました。隣りで布枝さんがベタ塗り(?)を手伝っています。夢中でマンガを描いていたらいつのまにか夜が明けてしまいました。朝のまぶしい光の中で、「こんなに仕事しているのに、おれたち貧乏なんだよねぇ」と、水木サンは自嘲気味に苦笑いをしながら窓を開けました(そのとき世間知らずで新婚ほやほやの布枝さんが「世の中には、こんなに働いて、こんなに貧乏な商売ってものがあるなんて不思議ねぇ」と言ったかもしれません)。

これをギュッと短縮して詩的に表現すると、

  ♪まぶしい朝に、苦笑いしてさ あなたが窓を開ける

となるのです。

このコラム、まさか「釣り」じゃあないだろうね。

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2011年1月11日 (火)

「ゲゲゲの女房」の主題歌「ありがとう」を歌っているのは?

1.いきものばかり    2.いきものがかり    3.いきものがたり
 
 
 
正解は2の「いきものがかり」です。最初はなんとなく「いきものがたり(粋 物語)」だと思っていました。こういう勘違いってよくあります。今までで一番ひどかったのは、オフコースの小田和正のことを、字面だけ見て大和田 正だと思い込んでいたことがありました(赤面)。

それはともかくとして、いきものがかりはメジャーデビューするまでは、地元の海老名や本厚木などで路上ライブをやっていました。今でも海老名のビナウォークや本厚木の駅前広場では明日のスーバースターを夢見てマバラな聴衆を相手に熱唱しているストリートミュージシャンをよく見かけます。いや、見かけましたといったほうがいいかもしれません。

最近は寒さのせいかこの路上ライブを見かけなくなりました。いくら寒いからといって、まったく見かけなくなってしまったのはちょっと変な感じがします。(政権が代わって)警察当局の取締りが厳しくなったのかもしれません。不粋な政権のおかげで現場の裁量による「お目こぼし」という粋なはからいができなくなっているのだとしたら、ちょっと考えてもらいたいです。真実は細部に宿るといいます。そんなふうだから菅政権(=強権管理政権)は人気が出ないのかもしれません。

さて、現在、小田急線の海老名駅と本厚木駅では、電車が接近してくる合図にいきものがかりのオルゴール調のメロディが流れています。こういうのを粋なはからいというのです。地元への感謝の気持から、いきものがかりの方で楽曲の提供を申し出てくれたそうです。このメロディは聞き慣れると当り前になってしまいますが、最初の頃はとても新鮮でした。

「静かな駅」というのが小田急のモットーらしいですが、いきものがかりの接近音に関しては、「うるさいからやめろ」という意見よりも「続けて欲しい」という意見の方が圧倒的に多いと思います。もはや中止になったら寂しいです。屁理屈をいえば、事故防止にも役立っています。乗客の心が和やかになって暴力行為のようなホームでのトラブルも減っているのではないでしょうか。

いきものがかりの曲、小田急・海老名と本厚木で

 小田急電鉄(本社・東京都新宿区)は11月3日から、若者に人気の3人組ポップユニット「いきものがかり」のオルゴール調のメロディーを、3人の地元の海老名、本厚木両駅(小田原線)のホームで、電車の接近音として流す。

 「静かな駅」を掲げる小田急でこれまで電車の接近音を流していたのは、「円谷プロダクション」の本社がかつてあり、2006年から「ウルトラマン」(上りホーム)と「ウルトラセブン」(下り同)のテーマ曲を流している祖師ヶ谷大蔵駅(小田原線)だけだった。

 小田急は「いきものがかり側から『地元に何か恩返しをしたい』という話があり、話し合って実現した。よりお客さんに親しまれる駅になれば」と話している。

 海老名駅では、「小田急線の窓に」という歌詞が出てくるデビュー曲「SAKURA」のイントロ(上りホーム)とサビ(下り同)。本厚木駅では、卒業式などで歌われる中高生に人気の応援ソング「YELL」のイントロ(上り同)とサビ(下り同)。今後1年をメドに始発から終電まで、全電車の到着時と、一部の電車の通過時に、各10秒流れる。

 いきものがかりは、小中高校の同級生だった山下穂尊さん(28)(海老名市出身)と水野良樹さん(27)(同)の男性2人が1999年に結成し、女性の吉岡聖恵さん(26)(厚木市出身)が加わった。小田急沿線の路上ライブなどで活動し、2006年にメジャーデビューした。

(2010年10月28日12時35分  読売新聞)

本厚木の一番街通りには、そのお店の前を通るといつもいきものがかりの曲が流れているCDショップがあります。お店の前の通りには、いきものがかりの横断幕が掲げられています。頑張っているなと思っていたら、「音楽CD業界の長引く不況の影響」ということで、奮闘虚しく1月30日(日)をもって閉店らしいです。

このお店です → http://taharahr.blog94.fc2.com/

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2011年1月10日 (月)

角田光代の「空の拳」・第16回(1/8)まで

「空の拳」という小説は場面転換が頻繁に起きます。角田光代という人の小説にもともとこうした特徴があるのか、それとも新聞の連載小説であることを意識して場面転換を多くしているのか、詳しいことはよくわかりません。とにかく今まで読んだことのないユニークな小説です。印象としてはマンガを読んでいるような感じです。

この小説のもうひとつの特徴は夥しい数の登場人物(の名前)が出てくることです。場面が変わるごとに新しい登場人物が出てきます。中には二度と登場しない人もいるかもしれません。今のところ確実に重要と思えるのは主人公の那波田空也とトレーナーの有田正宗です。

 

さて、第13回からです。空也は練習生として鉄槌ジムに通うことになりました。有田がいい人だったので、とりあえずくさいのとうるさいのは我慢することにしたみたいです。

そして練習の初日です。バンテージの巻き方を教えてもらってから、まずは縄跳びです。空也は十日ぐらい前に入会した坂本秀志路という小柄な青年と知り合いになって、並んで縄跳びを始めました。

ところがです。空也は信じられないくらい運動神経が鈍く、縄跳びを始めたとたんに縄が足に絡まって転んでしまいました。隣でそれを見ていた坂本秀志路が、うふふ、とかすかに笑いました。精神のバランスを保つためには、ときには自分を合理化するための言い訳も必要です。

ぼくはべつにプロとか目指してないから。あまりの恥ずかしさのために空也は胸の内で言い訳をした。ただ取材しにきているだけだから。ふつうの編集者は、ここまでやんないから。

縄跳びに続いて、サンドバッグ打ちやパンチングボール、ダブルパンチングボールを習いました。でも、空也が満足にこなせるメニューはひとつもありませんでした。あまりのひどさにトレーナーの有田は空也を見捨てて(?)坂本だけに熱心な指導をするようになりました。
 
 
ボクシングの基本はジャブとストレートです。ジャブについて、Wikipedia は次のように解説しています。

腰の回転を使わず腕の瞬発力をもって放つため、相手に与えるダメージは比較的大きくない。ジャブはダメージを与えることに主眼を置かず、相手を牽制し間合いを計ることで試合をより有利にコントロールすることを目的としている。特に近代格闘技においてその意味合いが強く、突進してくる相手の出鼻を挫く、正確に当て続けることでポイントを稼ぐなど、試合の中でジャブが有効とされる局面は非常に多い。

しかしいかに力を抜いた軽いパンチといえども、訓練を積んだ競技者が放つジャブを被弾し続ければ体力の消耗は免れない。元WBC世界ライト級チャンピオンのガッツ石松は「世界レベルの選手が放つジャブは効く」と発言している。またカウンターのタイミングでのジャブは、ダウンを奪うことも出来る。

ボクシングの格言に「左を制する者は世界を制する」という言葉がある。これはボクシングにおいてジャブがいかに大切であるかということを指し示している。

威力を犠牲にしてスピードを極限まで高める特性から、しばしば格闘技における最速の打撃技とも称される。

これを読んだだけでもボクシングにおいてジャブがいかに重要であるかがわかります。

「あしたのジョー」で、丹下段平が少年鑑別所のジョーに送った「あしたのために」(葉書)は、その1がジャブ、その2が右ストレートでした。

あしたのために その1 【ジャブ】
攻撃の突破口を開くため、或るいは敵の出足を止める為、左パンチを小刻みに打つ事。
この際、肘を脇の下から離さぬ心構えで、やや内角を狙い、えぐり込む様に打つべし。
正確なジャブ3発に続く右パンチは、その威力を3倍にするものなり。

あしたのために その2 【右ストレート】
左ジャブで敵の体制を崩し、突破口を見出せば、すかさず右ストレートを打つべし。
これ拳闘における基本なり。
右ストレートは、右拳に全体重を乗せ、まっすぐに目標をぶちぬく様に打つべし。
この際、打ったコースと同じ線上を同じスピードで引き戻す事。
一発でKOを生む必殺パンチなり。

 

空也は坂本をまねて、鏡の前でリズミカルに、ジャブ、ジャブ、ストレート、ジャブ、ジャブ、とやってみた。うん、いいんじゃない、と思ったとき、盛大な笑い声が聞こえた。鏡の前でほかの練習生を指導していたトレーナーが、空也を見て笑い転げていた。

……残念無念です。おそらく空也のはボクシングというよりもタコ踊りみたにいなっていたのだと思います。こういうのって、笑っちゃいけない、笑っては失礼だと思うとよけいおかしくなってきて大爆笑になってしまいます。決して悪気はないんです……何だか「春菜の写真」みたい。

ボクシングをやっている人を基準にすれば、空也は頭がいいほうです(たぶん)。身体で覚えるのが無理なら、頭を使って(=本を読んで)ボクシングを理解しようと考えました。練習の帰り道、空也はボクシングの本を購入しました。

今日習ったジャブ、ストレート、フックを、書かれた言葉を頼りにひととおりやってみた。パンチを出す方向に体重を移動させるとか、力を逃がさないようにして右肩を前に押し出すとか、読めばすぐわかるのに、思うように体が動かないのがもどかしかった。

一般的には、(スポーツというのは)言葉で説明されてもわからないけど体が勝手に動いてしまう、というのが普通だと思います。ところが空也の場合はまったく逆です。読めばすぐわかるのに、体が思うように動きません……なんだか前途多難です。

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2011年1月 9日 (日)

教育テレビのアニメ「バクマン。」・第14話「バトルと模写」を観る

マンガには「王道」と「邪道」があります。王道というのはバトルマンガのことです。日本一のマンガ家(=人気ナンバーワンのマンガ家)になるためには、王道のバトルマンガで勝負しないとほとんど不可能です。「週刊少年ジャンプ」に連載中の人気マンガ、「BLEACH (久保帯人)」、「HUNTER×HUNTER (冨樫義博)」、「NARUTO -ナルト- (岸本斉史)」 、「ONE PIECE (尾田栄一郎)」などはすべて王道のバトルマンガです。

いっぽう邪道というのはバトルマンガ以外の異色マンガのことです。優れた邪道マンガは編集者や目利きの読者からは高く評価されます。テーマや構成のしっかりしたいわゆる玄人受けのするマンガです。しかし、玄人受けするマンガというのは一般受けはしにくいため、少年マンガ誌の人気投票でナンバーワンを狙うには不向きです。

最高(サイコー)と秋人(シュージン)が増刊号「NEXT!」で発表した「この世は金と知恵」は典型的な邪道マンガです。人気投票では第3位でした。邪道マンガにもかかわらず第3位というのは脅威の好成績です。

最高と秋人が自分たちの描きたいマンガを自由に描くと秋人の作家性が反映されて必然的に邪道マンガになってしまいます。二人を担当している編集の服部さんは、二人の魅力は誰にも真似のできない異色の邪道マンガにあるとにらんで、その方向で二人を伸ばしていこうとしています。

最高や秋人よりも1学年上(高2)の天才マンガ家・新妻エイジも二人が描いた「この世は金と知恵」という作品を高く評価していて、初対面の二人に次のような感想を述べています。

「あれ、ボクの頭じゃ思いつかないです。すごいです。ボク、あのマンガ好きでファンです。ひとつですけど、ボクより年下であれ描いたってすごいです。でも年が近くてうれしいです。いっしょにジャックでやっていく仲間がいて心強いです」

新妻エイジは増刊号「NEXT!」に掲載された「CROW」が人気投票で第1位になりました。すでに手塚賞(少年向けストーリー漫画の新人賞)を受賞していて、本誌の「週刊少年ジャック」での連載が決まっています。ただ、新妻エイジはアンケート調査だの人気投票だのといったことにはまったく関心がありません。編集者との打ち合わせもすっぽかしてとにかくがむしゃらに自分の好きなマンガを描いています。そこで、自分のマンガの連載が決まったんだから、自分よりも面白いマンガを描いた亜城木夢叶(最高と秋人のペンネーム)のマンガも「週刊少年ジャック」に連載されるものと勝手に思い込んでいるみたいです(たぶん)。

最高と秋人を担当している編集者の服部さんは、王道のバトルマンガで新妻エイジと勝負しても勝てっこないし無理だから、別の土俵(=邪道マンガ)で才能を活かすようにと二人を説得しようとしました。しかし、最高と秋人は納得しません。二人は新妻エイジの圧倒的な才能を見せつけられても、戦意を喪失するどころか逆にますます闘争心が募るばかりです。

最高と秋人は日本一のマンガ家になりたい、つまり王道のバトルマンガで勝負がしたいのです。二人は服部さんに懇願して半年間の猶予をもらい、モノになるかどうか、バトルマンガ路線で頑張らせてもらうことにしました。二人の描くバトルマンガは今のところはまだヘタクソでお話になりません。設定がベタだし、話の持って行き方やバトルの見せ方もまだまだこれからです。担当の服部さんは渋い顔すること限りなしです。

 

バトルマンガを描くにあたって、秋人は空手家(?)の見吉香耶(この人、秋人の彼女で巨乳です)に本気で殴ってもらって、格闘家の心理を学ぼうとしました。で、最初に学んだことは……「怖い」でした。

最高はバトルマンガにふさわしいオリジナルの画風を生み出すために、「ヒットしたバトルマンガ10作のいいと思うシーン、最低100ページずつ模写する」という目標をたてて、とりあえずは「ドラゴンボール」を一生懸命模写していました。

最高と秋人は、せっかく三合目まで登った山を麓まで下りて、もっと険しくもっと高い山に登ろうとしています。どうなるのでしょうか?

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2011年1月 8日 (土)

「踊る踊る踊る!さんま御殿!!」・今年勝負の女たち!

新春初笑いです。1月4日の「踊る踊る踊る!さんま御殿!!」での出来事です。ハリセンボンの近藤春菜の写真がスタジオに流出しました。成人式の時の晴れ着姿の写真です。

首から下の美しい着物と首から上のアンバランスが衝撃的でスタジオ大爆笑。笑ってはいけない、笑っては失礼だと思いつつも、我慢できなくなって前列のユッキーナ(木下優樹菜)とアッキーナ(南明奈)が顔を見合わせて申し訳なさそうに笑っていました……なんてこった。

「お前ら失礼だぞ、反省しろ!!」と言いたいところですが、たしかにあの写真を見せられたら笑わずにいるのは難しいです。

「笑ったりしてごめんなさい」などと謝ったりすると余計失礼です。なかったことにしてほとぼりが醒めるのを待つのがいいです。春菜はお笑い芸人だし心が広いから許してくれます(たぶん)。これが中学生だったりして、笑われた本人が傷ついて泣きながら窓から飛び降りたりしたら、いじめによる自殺になってしまいます。お笑いといじめは紙一重です。

それにしても写真1枚であれだけ笑わせてくれる芸人も珍しいです。それだけ春菜はみんなから(特に女性から)愛されているということです。たっぷんたっぷんしてんじゃねえよ。本人は「あたし美人じゃないから……」と思っているかもしれませんが、性格的にも春菜を理解してくれる男性はなかなか現れないかもしれません。相棒のはるかが男だったらよかったのにね。もし春菜が結婚するとしたら……さかなクンなんかどうでしょうか。

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2011年1月 6日 (木)

「パーフェクト・リポート」・「Q10」・「ギルティ 悪魔と契約した女」

去年終了した秋の連続テレビドラマで、思わず「それはないでしょう」とつぶやいてしまったドラマについて述べます。

「パーフェクト・リポート」
失敗作でした。このドラマのプロデューサー(?)は、松雪泰子のキャラクターを勘違いしたのではないでしょうか。松雪泰子は目立たない位置で存在感を発揮する女優さんだと思います。あの「Mother」を通して観ればそのことがよくわかります。「Mother」というドラマは、前半は継美役の芦田愛菜、後半は望月葉菜役の田中裕子がドラマを牽引していました。松雪泰子はこのふたりに挟まれてどちらかというと地味でひっそりとしていました。目立とうとしないそのひっそり感がよかったのです。

松雪泰子に米倉涼子や篠原涼子のような軽いノリの目立ちたがりのキャラを演じさせようとしても無理です。もっと屈折した暗い雰囲気の役でないと。たとえば、「ギルティ 悪魔と契約した女」の野上芽衣子(菅野美穂)のような役が松雪泰子にはうってつけです。あるいは一歩さがった感じの「医龍3」の加藤晶(稲森いずみ)のような役もいいです。

女優の中には、菅野美穂のようにどんな役でもそつなくこなすタイプとハマリ役があってそれ以外はダメという人がいると思います。松雪泰子は後者です。とにかく眉間に皺を寄せている役でないと……。
 

「Q10」
こういう学園ドラマはいつもなら第1話の途中で観るのをやめてしまいます。でも今回は最後まで観ました。大河ドラマ「龍馬伝」で人斬り以蔵をやっていた佐藤健が出ていたからです。佐藤健はこんなへんてこりんな学園ドラマでなくて、もっとちゃんとしたドラマに出たほうがいいです。

このドラマの最大の失敗は、いくらロボットだからといって、百年の恋も醒めてしまうようなあのしゃべり方はなかったと思います。Q10(キュート・前田敦子)には方言(たとえば京都弁)でもいいからちゃんとした人間のしゃべり方をして欲しかったです。でも、Q10の正体が明らかになった最後のオチはなかなかよく考えられていました。ハッピーエンドでした。

このドラマのおかげで、何が何だかわけがわからなかったAKB48のうち、前田敦子だけは見分けられるようになりました。

 

「ギルティ 悪魔と契約した女」
冤罪で13年間服役させられた女の復讐劇です。今クールで唯一ハッピーエンドでなかったドラマです。菅野美穂がコマーシャルで見せているあの明るい笑顔を封印して暗く陰気な「悪魔と契約した女」を演じていました。

失敗作というよりもあえてタブー(法治国家を否定する反社会的ドラマ)に挑戦した異色作といったほうがいいかもしれません。

同じ殺人でも野上芽衣子の殺人には多少は情状酌量の余地がありました。ほとんど身勝手といえる「銭ゲバ」の蒲郡風太郎の殺人に比べればまだ救いがありました。それなりにスポンサーもついていたし。ただシナリオがメチャクチャでした。

このドラマの救いは菅野美穂の熱演と主題歌(JUJU「この夜を止めてよ」)とラストシーンです。途中経過は無視して最終回だけ観るとけっこう感動できるかもしれません。

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2011年1月 5日 (水)

角田光代の「空の拳」・第12回(1/4)

「空の拳」の第12回です。トレーナーの有田正宗の話の中に伝説のボクサーが二人出てきました。大場政夫と白井義男です。これだけのビッグネームでも、一般の人(つまり私)にはどこかで名前を聞いた事があるぐらいの知識しかありません。そこで調べてみることにしました。

まず大場政夫について。 Wikipedia は次のように紹介しています。

大場 政夫(おおば まさお、男性、1949年10月21日~1973年1月25日)は、日本のプロボクサー。東京都墨田区出身。右ボクサータイプ。帝拳ボクシングジム所属。第25代WBA世界フライ級王者。WBA世界フライ級王座を5度防衛した。現役世界王者のまま事故死したため「永遠のチャンプ」と称される。

戦績:38戦35勝(16KO)2敗1分

ラストファイトとなった5度目の防衛戦は壮絶な闘いでした。

1973年1月2日、日大講堂で行われた5度目の防衛戦の相手は「稲妻小僧」の異名を持つベテラン、チャチャイ・チオノイ(タイ)。初回、いきなりの右ロング・フックをまともに受け大場はダウン。この時大場は右足首を捻挫、以降ラウンド間に氷で冷やしつつ、足を引きずりながらも打ち合いに応じていった。
大場は、強気のボクシングで試合中盤から形勢を逆転し、ついに12回、チャチャイから1度目のダウンを奪う。タイの老雄はレフェリーに促されるように立ち上がるが、鬼気迫る表情の大場の連打に晒され2度、3度とダウン。大場は逆転ノックアウト勝利を収めた。

詳しくは → http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%A0%B4%E6%94%BF%E5%A4%AB

稲妻小僧のチャチャイはベテランだけにスタミナに問題があったようです。早い回で決められなかったのが敗因です。それにしても、右足首を捻挫しても試合を放棄しないで闘った大場の根性はたいしたものです。
 
 
次に白井義男について。

白井 義男(しらい よしお、男性、1923年11月23日 ~ 2003年12月26日)は、日本の元プロボクサー。東京市(現東京都)荒川区出身。元世界フライ級王者である。日本人として初めての世界王者となった。右のアウトボクサー。

最終戦績は58戦48勝(20KO)8敗2分。世界戦戦績は7戦5勝2敗。
※戦前戦後のデータ不詳により、白井の戦績については、65戦53勝(22KO)8敗4分、58戦46勝(18KO)8敗4分など各説ある。

詳しくは → http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E4%BA%95%E7%BE%A9%E7%94%B7

白井義男のラストファイトは1955年5月30日のパスカル・ペレス(アルゼンチン)とのリターンマッチでした。白井義男は5回KOで敗れ、タイトル奪還はならずに現役を引退することになります。さて、ここで問題です。テレビ中継されたこの試合の視聴率は何%だったでしょうか?

 ① 46%    ② 56%    ③ 76%    ④ 96%

 

答えは④の96%(電通調べ)です。これは日本のテレビ放送史上最高の視聴率です。1955年当時テレビのチャンネルがいくつあったかわかりませんが、今後この最高の視聴率の記録が破られること絶対にありません。

白井義男のラストファイトの様子を解説してくれているHPがありました。

パスカル・ペレス×白井義男
昭和30年5月30日. フライ級
東京 ・ 後楽園球場. 5回 KO . パスカル・ペレス
半年後のリターンマッチも、白井の惨敗に終わった。試合開始直後いきなりの左ロングフックで倒され、右フックで再びダウン。2ランド、やや持ち直したものの、4回に右ストレートを顎に食って3度目。5回にも右フックで前のめりに倒れ、其のまま立てなかった。ペレスが前回の勝利で自信と逞しさを増したのに対し、32歳の白井は、全盛期を知るファンには抜け殻の様に映った。試合直後、白井は引退を表明。

詳しくは → http://mihasi.tripod.com/sirai/sirai.htm#sira7

会場が後楽園球場となっていますが、別に後楽園ホールの間違いではありません。この試合は後楽園球場(現東京ドーム)に特設リングを設けて実施されました。観客4万人とか。
 
 
アリスに「チャンピオン」という曲があります。年老いたチャンピオンが若き挑戦者にマットに沈められて敗れ去っていくという内容の曲です(モデルになったのはプロボクサーのカシアス内藤)。白井義男の戦歴を調べていたらこの「チャンピオン」という曲を思い出していました。

全盛期を過ぎて年老いてリングを去っていくボクサーの寂しさと安堵感は、引退するほとんどのボクサーが味わっているのではないでしょうか。恐怖心を克服してリング上で命を懸けて闘ってきた代償がこの寂しさと安堵感です。

 

さて、小説に戻ります。有田正宗によれば、鉄槌ジムのオーナー小暮修造は大場政夫が事故死した後、自分が大場になると意気込んでデビューしたものの六回戦止まりでした。その父親の小暮鉄平もボクサーで、鉄平はかなり強かったらしく日本チャンピオンになったそうです。白井義男とも試合をしたとか。

小暮家というのは相当の資産家で、建築業を営んでいる一族の税金対策として鉄槌ジムは利用されているらしいです(つまり赤字でもかまわない)。

空也が「税金対策」とメモすると、そんなことまで書かなくていいと有田に笑われてしまいました。

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2011年1月 4日 (火)

教育テレビのアニメ「バクマン。」を観る

大晦日に教育テレビでアニメ「バクマン」の第13話までが一挙に放送されていました。途中で気がついたので、第1話は見逃してしまいましたが、第2話から第13話までしっかり録画しました。面白かったです。

アニメでは集英社が遊栄社、「週刊少年ジャンプ」が「週刊少年ジャック」になっていたりで、原作マンガのリアル志向がやや後退していました。でも、「ドラゴンボール」や「ONE PIECE」、「巨人の星」や「あしたのジョー」といったマンガ作品は実名で出てきました。

「バクマン」はマンガ家を目指すふたりの少年(真城最高と高木秋人)の青春ストーリーで、藤子不二雄の「まんが道」の現代版といった感じのマンガです。

真城最高(ましろもりたか・通称サイコー)は絵はうまいけどお勉強のほうはイマイチ、高木秋人(たかぎあきひと・通称シュージン)は学年トップの秀才だけど絵はド下手でした。絵が下手なのにどうしてもマンガ家になりたかったシュージンは、「俺がストーリーを考えるからお前がマンガを描け」ということで、絵のうまいサイコーを誘って二人三脚でマンガ家を目指すことになりました。

サイコーにはマンガ家だった叔父さんがいました。ペンネームは川口たろうです。一度はデビューしたものの、やがて売れなくなり、出版社から戦力外通告をされます。それでも諦めないで(採用されない)マンガを描き続け、過労のために死んでしまいました。その叔父さんの仕事部屋(マンション)には、膨大な生原稿や資料などがそのままのかたちで残されていました。

サイコーが家族に反対されるのを覚悟で「マンガ家になりたい」と言い出したとき、お祖父さんから川口たろうの仕事部屋のカギを渡されました。今まで封印していた部屋を提供するから頑張れという意味です。父親もなぜか反対しません。川口たろうが果たせなかった夢をサイコーに託したのかもしれません。このとき、サイコーはまだ中学3年生でした。

サイコーとシュージンにはそれぞれ彼女(?)がいました。サイコーの彼女は亜豆美保(あずきみほ)という内気で声優志望の美少女です。彼女といってもほとんど口を聞いたこともなければ手を握ったこともありません。でもサイコーは亜豆が好きなんです。亜豆も内心ではサイコーが好きです。

サイコーは、将来サイコーとシュージンがマンガ家になって、ふたりのマンガがアニメになって、アニメの声優を亜豆が担当して、そうしたら結婚しようと亜豆と約束してしまいます。その夢が実現するまではメール交換だけの禁欲恋愛(?)です。変なの。

シュージンの彼女は見吉香耶ひとみかやみよしかや)という押しかけ彼女みたいな巨乳の美女(?)です。性格は明るくサバサバしていて言いたいことははっきりと言うタイプです。短気で暴力的でもあります。見吉は亜豆とは親友で、サイコーと亜豆がうまくいくようにいろいろ気を遣ってくれます。サイコーが評するに「(見吉は)基本いい奴」です。見吉はサイコーとシュージンの「仕事場」に出入りが許されている唯一の女性でもあります。
 

川口たろうの仕事部屋だったマンションはサイコーとシュージンが自由に使える秘密のアジトのような感じの場所です。中学3年生にだれも住んでいないマンションのカギなど渡したら、そこが溜り場になって宴会(?)が始まりそうですが、このふたりはその部屋をマンガを描くこと以外に使うつもりはありません(たぶん)。

 

サイコーが進学した高校は成績が悪くても合格できそうな埼玉県立谷草北高校です。秀才のシュージンもマンガに専念するために谷草北高校に進学します。で、シュージンの押しかけ彼女の見吉も谷草北高校です。ただサイコーの彼女の亜豆だけは八王子に引越すことになっていて、同じ高校には進学しませんでした。

サイコーとシュージンは女性の好みが同じでなくてよかったです。マンガではシュージンと見吉はすでに結婚しているみたいですが、アニメのほうはまだふたりは高校一年生です。

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