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2011年9月14日 (水)

「これがビートルズだ」(中山康樹著・講談社現代新書)を読む

この本の中で、中山康樹氏はビートルズのデビュー曲 である「ラヴ・ミー・ドゥ」(62年9月11日録音のアルバム・ヴァージョン)を次のように評しています。

 記念すべきデビュー曲である。だが、それがどうした。凡曲である。凡演である。聴くべきところはほとんどない。

(中略)

 なぜこれが『赤盤』や『ビートルズ1』といったベスト盤の一曲目に入っているのか。みんなこの曲でこけているというのにだ。なにが「ラ~ラミドゥッ」か。ビートルズだから、ましてデビュー曲だからといってありがたがることも自分自身に嘘をつくこともない。この曲をダメと断じる耳があってはじめて他の曲がいかに偉大であるかが理解できるのだ。

(中略)

 いまなお解けない謎は、なぜビートルズがこのような凡曲を望んでデビュー・シングルに選んだのかという真意だ。

おそらくプロデューサーだったジョージ・マーティンはビートルズのデモテープをクラシックやジャスを聴く感覚で聴いていたのだと思います。このプロデューサーはロック・ミュージックはあまり好きではなかったと推測されます。

しかし、どんな凡曲であっても、ビートルズとジョージ・マーティンを結びつけたという意味で、「ラヴ・ミー・ドゥ」はビートルズ史上(?)極めて重要な曲です。もしこの曲がビートルズのレパートリーに入っていなかったら、ビートルズとジョージ・マーティンの出会いはなかったかもしれません。もしビートルズがジョージ・マーティンと出会っていなかったとしたらどうなっていたでしょうか。ジョージ・マーティン抜きでもロック・バンドとしてならビートルズは成功していたかもしれません。しかし、ロック・バンドの域を超えた「ビートルズの不思議な旅」はまずなかったと思います。

ビートルズのデビュー曲が「プリーズ・プリーズ・ミー」でも「シー・ラヴズ・ユー」でもなく「ラヴ・ミー・ドゥ」だったというのは、まさに天の配剤です。

ジョージ・マーティンは「私は最後になって『ラヴ・ミー・ドゥ』を最高の作品として選んだ。この曲に魅力をあたえたのはジョンのハーモニカだった」(『これがビートルズだ』ビリー・シェファード著)

ジョージ・マーティンが決めた1枚目のシングル「ラヴ・ミー・ドゥ」はコケました。ビートルズが決めた2枚目のシングル「プリーズ・プリーズ・ミー」は空前の大ヒットです。これによって、少なくともロック・ミュージックに関する限り、ビートルズとジョージ・マーティンの心理的上下関係が決定しました。ジョージ・マーティンがプロデューサーでありながら、ビートルズのやることにつべこべ言わなくなって、ビートルズのアイディアを最大限尊重する立場に徹するようになったのも「ラヴ・ミー・ドゥ」の失敗があったからです。

ビートルズがアルバムでは実験的な音楽に挑戦しながらシングル盤ではなかなかロックから足を洗えなかったのも、「ラヴ・ミー・ドゥ」の失敗がトラウマになっていたのだと考えられます。なにしろあの「イエスタディ」でさえイギリスではシングル盤はリリースされませんでした。なにもそこまでしなくても(笑)。

石坂敬一は『ビートルズの辞典』(ゴマ・ブックス)の中で「ラヴ・ミー・ドゥ」について次のように述べています。

リフ・フレーズにハモニカを用いたり、節回しに黒人風のネバッコさがあったりで、クリフ・リチャードやヘレン・シャピロ全盛の当時のイギリス・ポップス界にあっては、まるで異色のサウンドを特色としていた。

それでは、当時流行っていたクリフ・リチャードやヘレン・シャピロの曲を聴いてから、その雰囲気の中で「ラヴ・ミー・ドゥ」を聴いてみましょう。

ダイナマイト/クリフ・リチャード & The Shadows


She's Gone/Cliff Richard & The Shadows


I Can't Say No To Your Kiss/ヘレン・シャピロ


Walkin' Back To Happiness/ヘレン・シャピロ


Love Me Do /ビートルズ

1963年1月12日、2枚目のシングル「プリーズ・プリーズ・ミー/アスク・ミー・ホワイ」が発売されました。その直後の2月2日から3月3日まで、計15回にわたる初のイギリス全国公演,が開始されます。もっともコンサートの主役はヘレン・シャピロです。ビートルズは前座にすぎませんでした。ところが、2月中旬すぎからは立場が逆転していつのまにかビートルズがコンサートの主役になっていたとか。

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