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2015年9月28日 (月)

「ゴルゴ13」第556話「地獄のダンサー 前編」を読む

1995年、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争下、クロアチア人居住地域で、セルビア人勢力の進行をたったひとりで阻んでいるクロアチア人の狙撃兵がいました。ジェーン・ペトロピッチです。ジェーンはまだ十代の少女です。それでも狙撃の腕は確かです。何人ものセルビア軍兵士がジェーンによって葬られていました。ジェーンに狙われたセルビア軍兵士は、一発で脳天をぶち抜かれます。即死です。ジェーンはセルビア軍から"地獄のダンサー"と呼ばれて恐れられていました。

PART1 生き馬の目を抜く女
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の終結後、ジェーンは米国に渡り、苦学の末に、ハーバード・ビジネス・スクール(ハーバード大学の大学院)でMBAを取得、現在は2500億ドル(約30兆円)もの債権ファンドを運用するケンドルトン社のファンドマネジャーになっています。

ケンドルトン社はジェーンが立ち上げた資産運用会社です。運用資産が巨額でもそのすべてはジェーンが責任を持って運用しています。その結果、ケンドルトン社は運用開始以来7年間、常にトップクラスの運用成績をあげていました。

ジェーンは「絶好の投資タイミングは悲観が頂点に達した時」という投資における先人の教えを忠実に実践していました。

 「絶好の投資タイミングは悲観が頂点に達した時」

これは「言うは易く行うは難し」です。大いなる悲観の後には破たんが待っているかもしれません。破綻まではいかなかったとしても、いつが悲観の頂点であるかを事前に見極めるのは困難です。相場には「まだはもうなり、もうはまだなり」という格言があります。

ジェーンは優秀な分析チームを持っていました。この分析チームによる分析データがジェーンの的確な投資判断を支えていました。
 
投資家に対する説明会で、投資家から「現在、最も有望な国はどこですか?」と訊かれたジェーンは、「ウクライナです!」と答えていました。説明会の会場にざわめきが起こりました。ウクライナは紛争で経済が疲弊し、デフォルトの危機が噂されている国です。

ジェーンのファンドはウクライナの外貨建て国債165億ドルのうち60%弱に当たる95億ドルを保有していました。ウクライナが経済破綻すれば95億ドルは紙切れです。
 
動揺する投資家に対して、ジェーンはウクライナ国債がいかに有力な投資先であるかを力説しました。ジェーンに言わせれば、世間がデフォルト寸前と考えている今がまさに「悲観が頂点に達した時」ということになります。一時は動揺した投資家たちも、ジェーンの自信にあふれた説明に説得されました。最後は万雷の拍手で説明会は幕を閉じました。解約を申し出た投資家は一人もいません。

 

PART2 IMFとの交渉
ジェーンは正攻法の緻密な情報分析だけでなく、裏技も使っていました。ジェーンはIMFの理事と思しき人物と債務危機に陥っているウクライナの救済について、密談を行っていました。IMFのこの人物にはしっかりと賄賂が贈られています。

ウクライナの救済を要請したジェーンに対して、IMFの理事と思しき人物は、IMFが救済に乗り出す条件として、債権団が半分の債権を放棄をすることを提案してきました。最大の債権者であるジェーンが債権団を主導して債権放棄をするよう説得してほしいというのです。

ジェーンは激怒しました。債権放棄などジェーンの念頭にはまったくありません。交渉は決裂です。ただし、IMFが救済に乗り出さないとどういうことになるか、交渉の最後にジェーンはしっかりと釘を刺しました。

 「私が、あなたの愛人名義のラップ口座に利益を流していることを、忘れないで!」

 

PART3 停戦監視、始まる
ボスニア紛争下、セルビア軍部隊の隊長にボルゴビッチという男がいました。"地獄のダンサー"と対峙していたあの隊長です。ボルゴビッチはボスニア紛争終結後も傭兵部隊を組織して世界の紛争地域を転々としていました。

すでにボスニア紛争から20年が経過しています。ボルゴビッチ隊長もすっかり年老いて白髪が目立って来ました。それでも戦場暮らしからなかなか足が洗えません。戦闘好きの人というのは、自分の命が危険にさらされているその緊張感がたまらないのかもしれません。

現在、ボルゴビッチは、OSCE(欧州安保協力機構)の停戦監視団の傭兵隊長として、ウクライナに派遣されています。傭兵というのは決まって最も危険場所に配備されます。一触即発の緩衝地帯での停戦監視は命懸けです。
 
この物語で、このボルゴビッチがどういう役割を担わされているのか、今のところはまだ不明です。
 
 

PART4 ジェーンの動機
ジェーンは、北アフリカで、戦争で親を亡くした子供達を養育するNPOを支援していました。実際に現地に出かけて行って子供達と触れ合ったりもしています。子供達といっしょにいるときのジェーンは、生き馬の目を抜く冷徹なファンドマネジャーとは別人です。穏やかで優しい母親の顔をしています。

 「私は金の亡者達を相手に、途方もない金額を賭けたマネーゲームを戦っていますが……こちらではお金の重みが違います……生きたお金は、子供達の運命を変える事ができるわ……」

かつて"地獄のダンサー"と呼ばれて恐れられていたジェーンも、戦争で家族を失った孤児でした。ボスニア紛争終結後のジェーンは、多くの人達の善意に支えられて生きてきました。ハーバード・ビジネス・スクールへも通わせてもらい、MBAも取得しました。

不幸な戦争孤児は子どものころの自分です。ジェーンは、ひとりでも多くの戦争孤児を救いたいと願っていました。そのためには、金の亡者を相手に、マネーゲームで徹底的に戦う覚悟でいました。
 
第556話「地獄のダンサー」の主人公であるジェーンは、これからゴルゴ13とどのようにかかわりあうのか……いまはまだ何もわかっていません。ひょっとすると、ゴルゴ13に暗殺される運命なのかもしれません。

 

PART5 標的は、あの国
資産運用会社・ケンドルトン社の会議室で、ジェーンと分析チームのメンバーが作戦会議を開いていました。分析チームのメンバーはやはりウクライナ国債への投資を危惧していました。

実際、最近こんなニュースが流れています(これは現実のニュースです)。

米S&P、ウクライナ国債を格下げ

読売新聞 2015年9月26日(土)22時10分配信

【ロンドン=五十棲忠史】米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は25日、ウクライナの外貨建て長期国債の格付けを、最も下の「選択的債務不履行(SD)」に格下げしたと発表した。

 SDは、債務の一部が約束通りに返済されないことを示す。

 S&Pによると、ウクライナ政府は今月22日、12月1日までの間に予定されている国債の利払いなどの一時停止を決めた。ウクライナは債権者に対し、借金の一部棒引きを含む債務再編を求めている。

ケンドルトン社は株式ではなく債権に投資するファンドを運用しています。ケンドルトン社が保有しているのは主に世界各国の国債です。ジェーンは新しい投資先を探していました。
 
「経済状況が最悪なのに、国債金利が異常に低い国」といわれてすぐに思い当るのは日本です。

 「日本は、政府債務がGDPの2倍以上と世界最悪の水準にあるにもかかわらず、国債金利は世界最低水準です。急激に進行する少子高齢化により、潜在成長率が低下する状況下で、経済構造改革は進んでいません」

この分析チームの分析は月並みですが、(日本の)将来的な経済破綻は、確実です!」とまで言い切りました。これを聞いて、ジェーンは日本の国債市場で売り仕掛けをする決断をしました。大量の資金を準備して日本銀行に喧嘩を売るつもりです。

 

PART6 財政ファイナンスでは?
日本の国会では、衆議院予算委員会で「日銀による国債の大量購入が財政ファイナンスにあたるのではないか」という野党議員の質問に対して、答弁に立った高津財務大臣は、「日銀が直接国債を引き受けているわけではないので、財政ファイナンスにはあたらない」と、あくまでも原則論で野党議員の追及を突っぱねていました。あとはのらりくらりとした答弁でどこ吹く風です。
 
その日の夜、黒沢日銀総裁から高津財務大臣に電話がありました。国会で日銀の金融政策をフォローしてくれたお礼の電話です。

国会での答弁はちゃらんぽらんでも、高津財務大臣にはそれなりの危機意識がありました。日銀総裁に「まさかの事態にも目配りしたほうがいい」といつになく悲観的な忠告をしていました。ところが日銀総裁はあくまでも楽観的です。

 「日銀に喧嘩を売るゴジラは現れませんよ。荒唐無稽な仮定の話はやめましょう。ははは……」

電話ではあくまでも楽観的に見えた黒沢日銀総裁ですが、実は夜も眠れないほど危機意識にさいなまれていたかもしれません。

出口戦略がないままに大量に国債を買い続けていれば最終的にどういうことになるのか……何か恐ろしいことが起きそうです。それでも日銀総裁として財務大臣に弱音を漏らすわけにはいきません。表面上はあくまでも楽観的態度を装っていました(たぶん)。

第556話の前編はここまでです。ジェーンの魔の手が日本の国債市場に迫っています。

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2015年9月21日 (月)

TVドラマ「ど根性ガエル」が終わってしまいました。

このドラマは原作から16年後の後日談という設定になっていました。原作と違うところがいろいろあったみたいですが、とにかく岡田恵和ワールド全開といった感じで楽しめました。原作の漫画やアニメについて、ほとんど何も知らなかったのがよかったのかもしれません。「泣くな、はらちゃん」を連想させるようなドラマでした。

それにしても最終回はしっちゃかめっちゃかでした。最終回には、パラレルワールドからやってきたのか、ひろしそっくりの別人が登場してきました。ひろしがピョン吉と出会わなかったらこういうふうになっていたという、もうひとりのひろしです。もうひとりのひろしは、みんなの前で身の上話をすると、何処へともなく去っていきました。

さらにすごかったのは、弱り切ってTシャツからはがれて死んでしまったはずのピョン吉が、元の普通のカエルに戻っていました。普通のカエルに戻ってしまったのかと思っていたら、またペッタンコになって平面ガエルになりました。再び平面ガエルになったピョン吉は、驚くほど元気になっていました。リフレッシュして寿命が延びたのかもしれません。もうめちゃくちゃです。

キャスト(9人と1匹)

ひろし(松山ケンイチ)
ぐうたらなバカ息子の役を松山ケンイチが大真面目に熱演していました。わざとらしい大げさな演技がドラマの雰囲気にピッタリでした。なんだかフーテンの寅さんみたい。

ピョン吉(声・満島ひかり)
教えてもらわなければ、まさか満島ひかりがピョン吉の声を担当していたとは気づかなかったと思います。
ピョン吉のしゃべり方は独特のイントネーションがあります。モノマネをするにはもってこいです。何かモノマネをしろと言われて困ったら、ピョン吉のモノマネをするといいです。その場合、「なあ、ひろし」よりも「かぁちゃん」がいいです。

京子ちゃん(前田敦子)
このドラマで前田敦子の好感度が急速にアップしました。これまであまりピンとこなかった前田敦子の魅力が何となく理解できました。決して特別な美人ではないけれど、むしろそれがいいのかもしれません。
京子ちゃんは、離婚して実家に帰ってきた出戻り女です。実家といっても両親はすでになく、1人暮らしのおばあちゃんがいるだけです。本当は、夫に死なれた若き未亡人という設定にしたかったのですが(たぶん)、それだと「めぞん一刻」になってしまいます。パロディということでそれでもよかったと思うのですが、遠慮して離婚という設定になっていました。ちなみに、なぜ離婚したのかは不明です。別れた元夫も最後まで出てきませんでした。
京子ちゃんは、ひろしのラブコールには冷淡ですが、ダメ男を脱却できないひろしの行く末を心配してくれてもいました。口は悪いけど根はやさしい人です。

五郎(勝地涼)
五郎は、ひろしの後輩で真面目なお巡りさんです。どこの方言なのか、「おはようでヤンス」とか「どうもでヤンス」とか、語尾に「ヤンス」をつけるのが口癖です。普通こういうキャラが出てくるとむかついたりイライラしたりするのですが、このドラマには、お人よしの五郎のキャラがよく馴染んでいました。五郎には妙な親近感がわいてきます。五郎はひろしの家に上がり込んでは朝ごはんをご馳走になったりしていました。「おかわりでヤンス」

ゴリライモ(新井浩文)
ゴリライモの本名は五利良イモ太郎です。変な名前ですが、このドラマでフルネームが存在するのは五利良イモ太郎だけです。名前が希薄なほかの人たちはゴリライモの夢の中の人なのかもしれません。
ゴリライモは、不愛想で見るからに悪人ヅラです。しかし意外にも心優しい人格者だったりします。そのギャップがすごいです。傍若無人のひろしの振る舞いにも寛大です。めったに怒ったりしません。
ゴリライモは家業のパン屋を継いだ若社長です。このパン屋というのがまたすごいです。作っているのはゴリラパン1種類だけです。アンパンもメロンパンもクリームパンもジャムパンもありません。儲け頭の食パンもありません。多くの人を雇って工場でただひたすらゴリラパンだけを作っています。毎日大量のゴリラパンを移動販売車に積み込んで売り歩いています。1個100円です。これで経営が成り立っているんだからたいしたものです。

ひろしの母(薬師丸ひろ子)
薬師丸ひろ子は気のいいおっかさんの役がピッタリです。いっそのこと薬師丸ひろ子を主人公にしてホームドラマを作ったらけっこう高評価のドラマになりそうな気がします。主演・薬師丸ひろ子ということになれば、往年のファンが涙を流して喜ぶかもしれません。
ひろしの母は、ひろしの母というだけで名前がありません。ゴリライモの工場で働いています。ピョン吉からは「かぁちゃん」と呼ばれています。バカ息子のひろしに手を焼きながらも明るく楽しく暮らしています。

梅さん(光石研)
宝寿司の親方です。親方といっても宝寿司にはほかに働いている人がいません。弟子のいない親方です。出前の配達も親方の仕事です。梅さんは16年変わらずよし子先生一筋の変な人です。「よし子先生!けっけっけ……」というのが口癖です。

よし子先生(白羽ゆり)
ひろしが卒業した中学校の国語の先生です。美人です。

  柔肌の 熱き血潮に 触れもみで 寂しからずや 道を説く君

梅さんが聞いたら鼻血を出して梯子から落っこちてしまいそうな短歌を、中学生相手に一生懸命教えています(ウソ)。
よし子先生はいつもニコニコしていて気がつくと梅さんのとなりにいます。梅さんのことがまんざら嫌いというわけでもなさそうです。でも、世の中には振るために惚れさせる性悪な女の人もいますから気をつけないといけません。

京子のおばあちゃん(白石加代子)
京子のおばあちゃんもなぜか名前がありません。このおばあちゃんは、気持ちだけは若くてひろしに色目を使ったりします。いくらなんでもずーずーしいです。校長先生で我慢しなさい。

町田校長(でんでん)
「教師生活41年」というのが口癖のいつも暇そうな校長先生です。この校長先生が仕事をしているのを見たことがありません。定年間近の月給泥棒みたいな人です。

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2015年9月 9日 (水)

「ゴルゴ13」第555話「ロンメル将軍の財宝 前編」を読む

「ゴルゴ13」第555話は「ロンメル将軍の財宝」というタイトルです。複雑なストーリーが神業でコンパクトにまとめられています。PART1からしっかり紹介したいと思います。

RART1 党首討論

イタリアのサルデーニャ島に資産家が入居する高級養護老人ホームがあります。そこの入居者である一人の老人がテレビを観ています。テレビにはドイツの討論番組が流れています。政権与党(?)のドイツ未来党の党首・フランツ・ドルンと最近ドイツで頭角を現してきた民族党(ネオナチか?)の党首・カール・ベックが移民問題を巡って激論を展開していました。司会進行役の女性はかなりの美人ですが名前は不明です。

司会  「移民、特にイスラム系住民が、ドイツの火薬庫であることは、明らかです。民族党の主張に支持が集まり、州議会議員を多数輩出しているのは事実です。でも一方では民族党はネオナチ。ベック党首、あなたはヒトラーの再来と、言われていることをどうお考えですか?」

ベック 「事実無根、不愉快ですね。私はユダヤ系の人々に何の偏見も持っていない!」

PART2 ガス室からの生還者

老人は食い入るようにテレビ討論を観ています。

ドルン 「正直私は、あなたの主張には嫌悪感を覚える!」

ベック 「私のような"愛国者"に、嫌悪感ですか?」

ドルン 「告白します。父はゲシュタポ(ナチス・ドイツの秘密国家警察)でした。そのことを私は恥じています」

ベック 「(ゲシュタポなら立派な愛国者ではないですか?恥じるだなんて)愛国者のお父上が気の毒だ」

ドルン 「愛国者ですって!?ナチスはドイツの名誉を貶めた売国奴集団ですよ!!」

ナチス・ドイツを巡る発言になると右翼と左翼は水と油です。見解の相違は如何ともしがたいです。放置しておくとエスカレートして罵り合いが始まりそうです。そこでMCの美女が話を本題に戻しました。

MC  「移民に対するお考えは?」

ドルン 「我々が差別をやめ、十分な教育と職場を提供すれば、移民問題など解消します!」

ベック 「奴らが我が国で、大規模テロを起こした時、あなたが何を言うか、見ものですな!」

ドルン 「…………」 ←この無言の反応はひそかな伏線です(たぶん)

移民の問題に関しても右翼と左翼の考えには妥協点がありません。

このテレビの討論番組を観ていた老人の名前はクルト・ガンスといいます。テレビ討論の途中でガンスは迎えに来た介護士に付き添われて車イスで散歩に出かけました。このガンスが現れるのを遠方の物陰でゴルゴ13が待ち受けていました。散歩の途中、ガンスはゴルゴ13に側頭部をぶち抜かれて即死しました。

ガンスは95歳です。余命幾ばくもないガンスをなぜ暗殺する必要があったのでしょうか?しかもスナイパーはゴルゴ13です。いったい誰がゴルゴ13にガンスの暗殺を依頼したのでしょうか?第555話「ロンメル将軍の財宝」は"暗殺ありき"で物語がスタートしました。

クルト・ガンスという老人はガス室から生還したアウシュビッツの生き残りとされていました。戦後、事業に成功して大金持ちになったといううわさです。養護老人ホームでは常に小さなバッグを肌身離さず持っていました。

ガンス暗殺の瞬間を双眼鏡で確認している男がいました。後に明らかになりますが、この男はモサド(イスラエル諜報特務庁)の諜報員です。この男がゴルゴ13にガンスの殺害を依頼していました。それにしても、モサドが"アウシュビッツの生き残り"を暗殺するというのがいかにも不自然です。いったいどういうことなのでしょうか?この謎もやがて明らかになります。

PART3 左遷された男

ドイツ連邦共和国の内務省管轄下に連邦憲法擁護庁(略称:BfV)という機関があります。ドイツ国内での反憲法活動を調査する機関です。

Wikipediaによれば、この憲法擁護庁の概要が次のように記されています。

憲法擁護庁は旧西ドイツにおいて1950年に共産主義者による反憲法的活動の監視を主目的に設立された。初代長官はオットー・ヨーン。機関員は2488人、予算は年間2億700万ユーロ(2013年現在)

国内における反民主的団体、共産主義団体、軍国主義団体、ネオナチ、テロリストなどの監視に当たるために設立された組織である。東西ドイツの分断時代は東ドイツの情報機関であるシュタージの工作活動の監視や防諜(カウンター・インテリジェンス)任務も担当していたため情報機関としての色彩も強い。現在はイスラーム過激派やネオナチへの対処などが主な課題となっている。

この憲法擁護庁の出先機関に勤務しているエドガー・ボームという男がいます。ボームは、もともとは連邦情報局(略称BND)の輝けるエリート(?)でしたが、連邦情報局を追われ、いまでは憲法擁護庁の出先機関で不遇の日々を送っています。

ボームは結婚していてインゲという妻がいます。インゲは重度の若年性アルツハイマーを患っています。ボームが自分の夫であることも認識できません。インゲはかつて極左のテロ組織・ドイツ赤軍(略称RAF)のメンバーでした。その事実が発覚してボームは連邦情報局を追われることになりました。自分の妻が元・ドイツ赤軍のメンバーだったなんて、ボーム自身にとっても青天の霹靂だったと思います。それでもボームはインゲを愛しいました。遅刻の常習犯でだらしがないといわれながらも献身的にインゲを支えていました。

ボームはナチとユダヤの専門家です。モサド(イスラエル諜報特務庁)にも顔が利きます。洞察力や推理力に優れた大変有能な人物です(やがてゴルゴ13と接触することになります)。

余命いくばくもないガンスの暗殺は、あまりにも大袈裟で不自然です。ガンス暗殺の裏に何があるのか、それを調べるように憲法擁護庁州局からボームが勤務する出先機関に依頼がありました。局長直々の依頼です。ボームがその調査を担当することになりました。相棒は若手(?)のフィンクという頼りなさそうな男です。フィンクは、機敏に行動するボームにあたふたしながらついていきます。

PART4 奴は偽物

ボームとフィンクが最初に向かったのはイタリアのサルデーニャ島でした。まずは暗殺されたガンス氏の遺体の確認です。遺体は正確に側頭部が撃ち抜かれていました。ボームはこの暗殺が腕利きのプロの仕事であることを確信しました。反射的にボームはゴルゴ13を思い浮かべていました。

ガンス氏の遺体には収容所で彫られる識別ナンバーの入れ墨のほかにナチ親衛隊の証となる入れ墨がありました。ナチに詳しいボームでなければ気がつかない血液型の入れ墨です。遺体は偽物でした。識別ナンバーの入れ墨は偽造です。ナチ親衛隊の隊員だった男が、逃亡中にユダヤ人のガンス氏になりすましていたのです。遺体がガンス氏ではないとすると誰なのか、遺体の本当の身元を割り出す必要があります。

RART5 ナチスの最終作戦

サルデーニャ島の空港で、ガンス氏の顧問弁護士アルベルト・ヨストが誰かと電話で話をしています。

 「ガンス氏の遺言通り、"フェンリル最終作戦"を早めよう」

電話の向こうに誰がいたのかは不明です。おそらくはフェンリル最終作戦の首謀者(ヒトラーの後継者)です。フェンリル最終作戦というのは、死を覚悟したヒトラーが立案したナチス再興計画のことです。ナチス再興……そのときのために、莫大な財産が秘匿されたといいます。

ナチには膨大な隠し財産がありました。しかしそのほとんどは逃亡中の戦犯によって遣われてしまいました。ただフェンリル最終作戦に携わった連中だけは、ヒトラーの死後もヒトラーに忠誠を誓っていました。戦後70年を経た今もなおフェンリル最終作戦を実行に移そうと、機が熟すのを待っていました。

ガンス氏の親族は強制収容所で全員殺されていました。相続人がいません。顧問弁護士のヨストによれば、ガンス氏には遺言状があって、遺産は全額、戦災孤児地球基金に寄付されることになっていました。この遺言状はおそらくヨストによるねつ造です。戦災孤児地球基金なる基金は存在しません。

偽物だったガンス氏の本当の身元が判明しました。オットー・アドラー、ナチ親衛隊の少尉だった男です。アドラーは私心のない有能な会計士でした。来るべき日のために、70年の長きにわたってナチの莫大な財産を管理していました。アドラーは悪名高きヴァルター・ラウフ大佐の部下でした。
 
ラウフがナチスの最終作戦の首謀者だとすれば、ラウフの死後(ラウフは1984年に死亡)、最終作戦はアドラーに引き継がれたと考えるのが自然です。いま、そのアドラーも暗殺されてしまいました。最終作戦はアドラーからさらに別の誰かに受け継がれたことになります。
 
サルデーニャ島でバームは顔見知りのモサド(イスラエル諜報特務庁)の男に出合いました。バームはその男をレビと呼んでいました。レビは、暗殺を依頼したとき、それがどんなに確実でも、実際に現地に赴いて自分の目で本当に実行されたかどうかを確かめないと気が済まない習性があります。そのことをバームは知っていました。つまり、サルデーニャ島にレビがいるということは、ガンス氏暗殺の依頼主がレビだということです。
 
バームは、半信半疑ながら、ガンス氏暗殺は、モサド(イスラエル諜報特務庁)が被害者に化けていたユダヤ人虐殺の戦犯を処刑したのだと単純に考えました。しかし、事態はもっと深刻でした。

レビは不気味な言葉を残して去っていきました。

 「わざと派手に殺して、奴らの作戦を早めたのさ。彼らは後継者を見つけたらしい……」

こここまでが前編です。主要な登場人物は前編ですべて紹介されています。この前編を熟読してから、中編-1、中編-2と読み進むと、この物語がいかに面白いかが納得できます。面白さをを味わうためには多少の努力が必要です。

9月10日に発売されるビッグコミック18号に後編(完結編)が掲載されます(まさか中編-3はないよね)。どういう結末になるのか楽しみです。とりあえず、ヒトラーの後継者は、ドイツ未来党の党首・フランツ・ドルンが怪しいです。

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