PART 1 藤山の思い
青森県の三内丸山遺跡(広さは東京ドーム7個分)には「縄文時遊館」という資料館が併設されています。縄文時遊館では出土品の展示のほかに様々なイベントが催されています。
第560話「縄文の火」に出てくる四内外山遺跡はこの三内丸山遺跡がモデルになっています。四内外山遺跡に併設されている「縄文まほろば遊学館」は「縄文時遊館」がモデルです。「ゴルゴ13」はフィクションですが、虚実が微妙に入り混じっています。後に出てくる山梨県の津金御所前遺跡は実在する遺跡です。
さて、第560話です。縄文まほろば遊学館で夏休みの自由研究のために集まった中学生を相手に、縄文文化について熱く語っている四十がらみの男がいました。藤山まさひと(仮)です。藤山は縄文文化の研究をしている在野の考古学者です。タラコ唇でなければけっこうイケメンですが、無精ひげを生やしていていかにも貧乏くさい男です。
藤山には但馬祥太郎という恩師がいました。但馬は帝都大学の教授で著名な考古学者です。その但馬の講演会が青森市文化会館で開催されることが決まりました。
講演会の開催を知った藤山は久しぶりにかつての恩師に会いたくなりました。藤山は但馬教授に電話をしました。しかし但馬の反応は冷淡でした。
「講演会は初心者相手のものだから、来なくていいよ藤山君……」
「でしたら、その後でお酒でも……先生と久しぶりに、お話がしたいので……」
「悪いが忙しいんだ。また今度にしよう……」
電話は一方的に切られてしまいました。但馬は露骨に藤山との接触を避けていました。
藤山は中学生のときに但馬教授に言われた言葉を思い出していました。
「先生は私に、こう語った。"研究において、君と私は対等なんだよ……君が縄文のことを一生懸命考える、私も一生懸命考える。そこに差はない"」
藤山はこの言葉に励まされて縄文文化の研究に取り組みました。縄文文化の研究はいまや藤山にとってライフワークになっています。藤山は研究一筋の生活を送っています。まだ独身です。アルバイトをしながら安アパートで質素な暮らしを続けています。
藤山には但馬に会ってどうしてもはっきりさせておきたいことがありました。藤山は嫌がられるのを覚悟で「来なくていい」と言われた講演会に出かけていきました。
PART 2 修復を巡る論争
青森市文化会館で「縄文文化とは何か?」と題する但馬教授の講演会が催されています。講演会に聴衆として参加した藤山は、講演終了後に但馬教授を半ば強引に食事に誘いました。但馬教授はいかにも迷惑そうでしたが本人を目の前にしては無下に断ることもできません。しぶしぶ食事に付き合うことになりました。
藤山と但馬教授は発掘された土器や土偶の修復に関しての見解が対立していました。但馬が藤山と接触するのを避けているのはそのためです。
「……土器や、土偶の欠損部分を境目もなく結合し、アクリルできれいに塗装する……先生は、あの修復をどうお考えですか?」
「それは、以前にも話したはずだ。」
「もう一度聞かせて下さい!」
「縄文人の気持ちを理解するには、なるべく、その当時の状態に近づけるべきだ。」
「そうでしょうか?出土した状態のままの方が、過去の年月を思えて、良いのではないでしょうか?」
「そんな事はない!修復によって生き生きと蘇らせる。その事で縄文文化の良さがわかるのだ。」
「しかし、それは学問の領域を超えているのでは?」
二人の見解はどこまで行っても平行線です。藤山には但馬教授が過剰な修復にこだわる真意がわかりません。藤山は但馬教授が文化財修復業者から賄賂をもらっているのではないかと疑念を抱くようになりました。
PART 3 謎のアメリカ人
来日したアランというアメリカ人が藤山に会いたいと言ってきました。アランも考古学者です。藤山の論文を読んで興味を持ったというのです。藤山は新幹線の改札口までアランを出迎えに行きました。
PART 4 アランの正体
藤山はアランに四内外山遺跡を案内しました。アランは藤山の説明にいちいち頷いて賛同していました。特に展示場の縄文土器には「エクセレント!素晴ラシイ!」を連発して目の色を変えていました。
二人は考古学者同士意気投合していっしょに夕飯を食べることになりました。藤山が青森の郷土料理を紹介したいと申し出たのに対して、アランはすでに寿司店を予約していると言い出しました。
藤山がアランに連れていかれたのは老舗の高級寿司店です。アランはどうやらこの寿司店が初めてではないようです。高そうな寿司を頬張ってくつろいでいるアラン見て藤山は何だか不安になってきました。
寿司店を出てからアランは藤山のボロアパートにやってきました。アランが藤山に接触してきたのは縄文文化を研究している藤山が所有している出土品を買い取って転売して儲けようとしていたのです。
「土偶ヤ土器ハ一級ノ美術品ナノデス。今マデハ、ソレホド注目サレテキマセンデシタガ、コノ10年デ、コレクションヲ始メル者ガ、タクサン出テイマス……1千万円程度ナラ、スグニ売レテシマイマス!物ニヨッテ1億円モアリウル。デスカラ、ゼヒ藤山サン二、ゴ協力シテイタダキタイノデス!」
アランは手付金(?)を置いていこうとしました。しかし考古学の貴重な出土品を売るなど言語道断です。だいたいそんな貴重な出土品を藤山は持っていません。純朴でバカ正直な藤山は金を受け取らずにアランを追い返してしまいました。
PART 5 但馬の焦燥
縄文土器や土偶はアメリカやヨーロッパのオークションで高額取引がされていました。中には1億9千万円の値がついたものもありました。こうした縄文土器や土偶は日本人の研究者が横流ししていたのです。
そのことに気がついた藤山は、出土品の転売を商売にしているアランは自分以外にも日本人の研究者に接触しているに違いないと思いました。そのとき、藤山の脳裏に浮かんだのは但馬教授の顔でした……。
国立帝都大学の但馬教授の研究室に来客がありました。アランです。アランは開口一番「実ハ、藤山サント会ッテマシタ。」と但馬教授に告げました。
驚いたのは但馬教授です。但馬教授は欠損部のある土偶や土器を修復して無傷で発見されたかのように偽って高値で横流ししていたのです(たぶん)。もし但馬教授がアランと関係していることが藤山に知られたら、横流しの事実が公表されてしまうかもしれません。そうなれば、但馬教授の学者人生はお終いです。それどころか詐欺師として犯罪者の烙印が押されることになるかもしれません。
研究者は研究できるだけで嬉しいんだよ
金銭は関係ない。まして自分は、縄文文化の研究
農耕文化が普及し、貧富の差が生まれる前の時代の人間なんだ。だから、富は求めないんだよ。
かつて藤山にこのように語っていた但馬教授も金の魔力には勝てませんでした。アランに唆されて研究者としての魂を売り渡してしまったのです。
「結局ハ金ガ欲シクナッテシマッタ……人間ハ富ヲ得ルト、変ワッテシマウモノデスヨ……」
前編はここまでです。この流れだと但馬教授が藤山の暗殺をゴルゴ13に依頼しそうですが、藤山の暗殺ならそれほど難しくありません。わざわざゴルゴ13に依頼するというのは不自然です。それに、悪人(?)の依頼でゴルゴ13が善人(?)を暗殺するというのもストーリー的にありそうもないです。
はたしてゴルゴ13は誰の依頼で誰を暗殺することになるのでしょうか?前編にはゴルゴ13はまったく登場してきませんでした。
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