2016年7月12日 (火)

「ゴルゴ13」第563話「ラブバード」を読む

過激派のテロが多発する今日、テロリストの入国を警戒してどこの国でも入国審査が厳しくなっています。入国審査の厳しい折、ゴルゴ13はどのようにして各国に出入りしているのでしょうか。第563話「ラブバード」は、こうした疑問に対する回答の話でもあります。まあ、密入国です。
 

 
●米国バージニア州に仲の良い中年の夫婦がいました。夫の名前はジョン、妻の名前はメアリーです。この夫婦は二人とも政府のインテリジェンス機関のエージェント(情報諜報員)です。

夫のジョンは世界中の船舶の動向と船主の情報を収集している"国際海洋インテリジェンスセンター"に勤務しています。一方妻のメアリーは衛星からの画像分析や世界各地の精密な地図を作製している"NGA(国際地球空間情報局)"で働いています。
 
 

●米国メリーランド州のボルチモアにジェントルマン・カンパニーという海運会社(?)があります。この海運会社が所有する"小型バラ積み貨物船"の動向に数年前からジョンは奇妙な符合を発見していました。
 
この小型貨物船が寄港して数日または数週間後に、近隣国で"重要人物"の殺害などの事件が起きるというのです。そして起きた事件はいつも迷宮入りです。

殺害事件は明らかにプロのスナイパーの仕事です。ジョンはこの小型貨物船はプロのスナイパーを乗せた工作船に違いないと考えました。しかし、上司に進言しても個々の殺人事件は守備範囲外だと言われてしまいます。
 

一方、妻のメアリーは国際地球空間情報局でテロリストのアジトを発見する仕事を担当していました。メアリーが気になっていたのはテロリストというよりもある"ガンマン"のアジトでした。アジトは世界中にありました。しかし、アジトが発見・摘発された後もそのガンマンが捕まったという報告がありません。大物であることに間違いないのに正体不明です。
 

●ジェントルマン・カンパニーの小型貨物船が動き出しました。小型貨物船はマイアミのエバーグレーズ港に入りました。この小型貨物船の動きを追っていたジョンは独力でその正体を突き止めてやろうと考えました。上司に報告しても相手にされないからです。ジョンはマイアミに行くつもりです。

一方、妻のメアリーも正体不明のガンマンのアジトの候補が複数マイアミにあることを発見していました。メアリーもマイアミに出かけて行ってアジトの詳細を確かめたいという衝動にかられていました。

ジョンとメアリーの夫婦は週末を利用してマイアミに旅行することにしました。よせばいいのにそれとは知らずにゴルゴ13に近づいていきます。

ジェントルマン・カンパニーの"G"、ガンマンの"G"、二人が追いかけている人物のコードネームは期せずして"G"です。その"G"の正体がゴルゴ13とは……。

ゴルゴ13はマイアミでゴルフ中の不動産王を狙撃した後、ジョンとメアリーの夫婦も交通事故に見せかけて葬り去りました。もっと早く"G"の正体がゴルゴ13だと気がついていれば、深追いすることもなくこの夫婦も殺されないで済んだかもしれません。

 
●ジョンとメアリーがマイアミに旅行に出かける際、ペットショップで知り合った謎の老紳士につがいのインコ"ラブバード"の世話をお願いしていました。

この老紳士は"国立媒体発掘センター"のゴルゴ13専門のエージェント(情報諜報員)でした。ジョンとメアリーの夫婦と老紳士はお互いが政府機関のエージェントだとは知らずに、ただラブバードという小鳥が縁で知り合いになっていました。

老紳士はラブバードの世話を引き受けたため、自分がゴルゴ13専門のエージェントだということをゴルゴ13に知られてしまいました。ラブバードの世話をしている老紳士の前にゴルゴ13が現れました……。

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2016年6月26日 (日)

「ゴルゴ13」第562話「Gの遺伝子 後編」を読む

「ゴルゴ13」シリーズは情報の宝庫です。外務省の職員が「ゴルゴ13」を読んで国際情勢の勉強をしているという噂もあなかち冗談ではないかもしれません。
 
6月24日、英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票は事前の予想を覆して離脱派の勝利に終わりました。離脱ショックで世界の金融・資本市場は大混乱です。日本でも株式市場は大暴落、円は急騰して一時1㌦=100円を割り込みました。
 
EUを離脱して孤立することになる英国はどこへ行くのでしょうか。「ゴルゴ13」第561話「The Great Game ザ・グレートゲーム」では、英国と中国の良好な関係が描かれていました。

英国は米国の反対を押し切って中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)に加盟、さらには約7兆4000億円(中国製原子炉の導入を含む)におよぶビジネス案件の契約を中国と締結しました。
 
今後、英国が経済的に衰退すれば、中国にとってはかつて煮え湯を飲まされたアヘン戦争(1840~42)の復讐をするチャンスです。中国は英国の弱みにつけ込んで無理難題をふっかけてくるかもしれません。
 

 

 
 
さて、第562話「Gの遺伝子」もいよいよ完結編です。

 「あなたは……私のお父様なのね?」

と訊ねるファネットにゴルゴ13は父親であることを否定して次のように述べました。

 「お前の血中から、俺と共通するDNAが見つかったとある……10年前、俺がお前に輸血した幹細胞がわずかに混じっていて、お前の血中で細々と、俺の遺伝子を持つ血液を、作り続けた……それはごく微量な割合だが、現代のDNA鑑定は精度が高過ぎ……逆に、間違った結果を出してしまった(中略)……俺は、お前に血を与えただけだ……血縁者ではない」
 

この説明を誰が信じるでしょうか?ゴルゴ13は養育費が払いたくなくて親子関係を否定したのではありません。父親が殺し屋ではファネットが不憫だからです。ファネットの幸せのためには裏街道を行く自分のことは忘れたほうがいいと考えたのです。

 「お前を育ててくれた、今の両親を大切にする事だ……」

このセリフはスナイパーのセリフではありません。娘を愛する父親のセリフです。
 
ゴルゴ13の真意はファネットに伝わったでしょうか?

車で走り去るゴルゴ13を見送りながら、ファネットが

「お父様……お母様……」

とつぶやくシーンがあります。このお父様とお母様はゴベール夫妻の事ではありません。ゴルゴ13と自分を生んでくれたスザナのことです。ファネットはゴルゴ13が自分の本当の父親であることを確信していました(たぶん)。

 

PART 5 試合終了
最終章です。ホワイトハウスはトカゲのしっぽ切りを始めました。ゴルゴ13にホワイトハウスを襲撃されたら軍隊を出動して大統領を警護しなくてはなりません。襲撃される前に、ホワイトハウスは敵対する意思がないことをゴルゴ13に伝える必要があります。

(ホワイトハウスの指示で)国家安全保障局のマクレラン長官は自殺に見せかけてPRISM管制局のカーク局長を始末しました。"試合終了"の意思表示です。しかし、マクレラン長官がカーク局長に引導を渡すときのやり取りは読唇術によってゴルゴ13に読まれていました。長官と局長がグルだったことは明白です……長官はゴルゴ13に射殺されました。

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2016年6月12日 (日)

「ゴルゴ13」第562話「Gの遺伝子 中編-2」を読む

ゴルゴ13はゴベール夫妻と面識がありました。10年前左腕を撃たれて負傷した4歳のファネットを救出してジャン・ミッシェル・ゴベールのところに連れてきたのはゴルゴ13でした。
 
その後、ゴベール夫妻は、傷ついたファネットを迎え入れて養女として育てることにしました。ファネットを危険な世界から守るためです。

ゴルゴ13がゴベール邸を訪れたのはファネットに届け物があったからです。その届け物が何であるかは不明です。
 
 
 
PART 1 貴重な情報
ゴルゴ13は、情報屋を使ってファネットのゆくえを捜しました。ファネットに関する情報はすぐ手に入りました。情報屋によれば、その日の朝、ファネットはバー"ハンガリー狂詩曲"のあったモンマルトル西南部にいたというのです。情報源はファネットと接触したあのお婆さんです。
 
お婆さんが情報屋の知らなかった"皆殺し事件"の話をするので、情報屋はつい失礼なことを言ってしまいました。

 「そんな話は聞いた事ないぜ。もうろくしてんじやないだろうな。婆さん?」

 「女性に対して何て事を言うんだいっ!!」

情報屋はお婆さんに怒られてひっぱたかれてしまいました。"もうろく"といわれたのが気に障ったのか、"婆さん"といわれたのが気に入らなかったのか、とにかくお婆さんはすごい剣幕です。

"皆殺し事件"は不法移民の事件として闇に葬られていました。情報屋が知らなかったのも無理ありません。

 「不思議な事に、あの娘は……銃撃で皆殺しにされたって事を、知っていたんだよ……考えてみればあの顔、あの泣きぼくろ、あそこで殺されたバイオリン弾きの女によく似ていた……まさか、ゆ、幽霊じゃないだろうね……」

お婆さんはファネットが車で連れ去られていく現場も目撃していました。情報屋には情報屋仲間のネットワークがあります。ファネットを連れ去った車の行き先も10分もすればわかるみたいです。
 

 

PART 2 忌まわしい過去
パリ郊外の廃ワイナリー(ワイン工場)に監禁されていたファネットは、記憶の底に眠っていた忌まわしい過去の細部を鮮明に思い出していました。すべては鮮明なのに、ひとつだけファネットの記憶の中で奇妙な現象が起きていました。バイオリン弾きだった母親を殺害した人物(おそらくはゴルゴ13)が、記憶の中では死神(骸骨人間)になっているのです。
 
 「ママンは死ぬ間際……私に手を伸ばした後、あの死神に、何かを訴えていたような……あの時のママンの顔には、殺されることに対する恐怖感はなかった気がする……それは……何故なんだろう……私も恐怖を覚えなかった……それどころか、私は、あの死神の行為(ママンを射殺した行為)にホッとした記憶がある。それはどういう事なんだろう……更に私は、あの死神に懐かしささえ感じている……」
 
ファネットの記憶の断片から推測できることは、次の3点です。

1. 死神はファネットの母・スザナの殺害を何者かに依頼された。

2. スザナは死神に殺されることを望んでいた。

3. 死神はスザナを射殺した。

 

その後の出来事については、ファネットは気を失っていて記憶がありません。いや、恐ろしい惨劇の記憶も失われていました。気がついたときは、ゴベール夫妻がファネットの目の前にいました。

 
 
 
PART 3 親子鑑定
ファネットが監禁されている廃ワイナリーには監視カメラが設置されていました。ファネットはPRISM管制局の職員によって常に監視されていました。ファネットが目覚めた様子も監視カメラに映っていました。

職員はファネットのDNA解析データをシリコンバレーのカーク局長のところに送っていました。まずはゴルゴ13との親子鑑定をしてからファネットの聞き取り調査を開始するつもりです。
 
 
 

PART 4  2人は親子
話が横道に逸れますが、かつては疑問視されていたネアンデルタール人(旧人類)と現生人類の混血が、実は行われていたという研究結果が最近になって発表されました。

Wikipedia の「ネアンデルタール人」の項に次のような記述があります。

現代人に受け継がれたネアンデルタール遺伝子(最新の研究による)

2010年5月7日のサイエンス誌に、アフリカのネグロイドを除く現生人類の核遺伝子には絶滅したネアンデルタール人類特有の遺伝子が1-4%混入しているとの研究結果が発表された。これは、現生人類直系祖先であるホモ・サピエンスが出アフリカした直後すなわち10-5万年前の中東地域で、そこに既に居住していたネアンデルタール人類と接触し、混血したこと、一方でアフリカ大陸を離れなかった現生人類はネアンデルタール人類と接触しなかったことによる。 すなわち、出アフリカ後の中東で混血しその後にヨーロッパやアジアなど世界中に拡がった現生人類は、約3万年前に絶滅してしまったネアンデルタール人の血を数パーセント受け継いでいることが明らかになった。

さらに2014年の研究では、ホモ・サピエンスがネアンデルタール人と混血したのは今から6万年くらい前のこととしている。 ネアンデルタール人からの混入遺伝子は、現生人類の皮膚、爪、髪形成などの繁殖に重要でない遺伝子部分に細分化されて多く残っており、白っぽい皮膚、金髪や赤毛、青い目などいくつかのコーカソイド的な特徴はネアンデルタール人から受け継いだ可能性が高いとしている。

またこれとは別に、シベリアのアルタイ山脈の遺跡で発見されたデニソワ人はネアンデルタール人の兄弟種にあたり、現生のアジア民族特にポリネシア人やメラネシア人にはデニソワ人遺伝子も混入しているとの研究が、2010年12月に発表されている。

 

こんな話もあります。子どもの才能の有無が遺伝子検査で分かるため、中国のセレブは「DNA鑑定」で子どもの将来を決めているらしいです。無駄な努力を避けるためにはいいのかもしれませんが……なんだかなあ(詳しくは → http://matome.naver.jp/odai/2139745357303821001) 。
 

 

さて、DNA鑑定の結果です。ゴルゴ13とファネットは親子であるという結果が出ました。おそらく確率は99.9%です。
 
PRISM管制局のカーク局長が何をしようとしているのか難しくてよくわかりませんが、ゴルゴ13のルーツというのはゴルゴ13の遺伝子のことで、ゴルゴ13がどんな遺伝子を持っているかがわかれば、ゴルゴ13の体質や持病、今後どんな病気にかかるリスクが高いかまで、すべてわかってしまうらしいです。
 
 
 
PART 5 脱走
NSA(アメリカ国家安全保障局。アメリカ国防総省の諜報機関)の4人の職員がファネットを迎えに来ました。ゴルゴ13との親子関係が明らかになったことで、ファネットをアメリカに移送するつもりです。アメリカに移送されればファネットは一生飼い殺しにされます。

ファットは抵抗しました。ファネットのことを小娘だと思って油断していると痛い目にあいます。ファネットの身体能力はオリンピックの体操選手並み、柔道も有段者です。ファネットは拳銃を奪って応戦しながら隣の建物に逃げ込みました。

しかし隣の建物には少し腕の立つ殺し屋風の男が待ち構えていました。大ピンチです。でも殺される心配はありません。ファネットは大切な切り札です。それに、そろそろゴルゴ13が現れるころです……。

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2016年5月26日 (木)

「ゴルゴ13」第562話「Gの遺伝子 中編-1」を読む

PRISMシステム管制局に与えられた最重要ミッションの一つは"Gのルーツの探索"です。Gのルーツを探ってGの弱みを握り、Gに"首輪"をつけようというのです。このミッションは大統領命令です。Gに"首輪"をつけようとしているのは大統領です。

大統領はテロリスト集団がGを雇うことを恐れていました。
 
PRISMシステム管制局のカーク局長は、ベールに包まれているゴルゴ13のルーツをネット上で探るなんて所詮無駄だと内心では考えていました。
 
無駄な探索を任されている部下からも苦情です。

 「"G"みたいなプロはネットに上がるような情報を、残しませんって、局長……」

思いは同じということでカーク局長もぼやき節です。
 
 「確かに僕も、そう思うけど、予算が出ている以上……探さなきゃならんのだよ。」
 

闇夜に鉄砲を撃つような努力でもときには報われることがあります。カーク局長はフランスのネット検索ワードランキングで"Faette Gobert(ファネット・ゴーベル)"という聞いたことのない名前が第1位になっていることが気になりました。

ファネット・ゴーベルはライフルという地味なスポーツの選手です。まだ14歳の中学生です。ファネットは身体能力が優れているだけでなく、頭脳明晰で音楽や美術の才能もハイレベルです。"文武両道"の天才美少女として日刊紙『キニコス』に写真が掲載されたことがきっかけとなって、にわかにフランスのネット市民の注目がファネットに集まっていました。

「モンマルトルの丘美術館」で公開中のファネットの作品は"ゴルゴダの呼び声"というタイトルがつけられています。ゴルゴダの丘で磔になったイエス・キリストの受難を連想させる作品です。
 
カーク局長は、ファネット・ゴーベルがライフルを構えている写真を見て胸騒ぎがしました。ライフルを構えたファネットの眼光がGにそっくりだったからです。
 
ゴルゴダの丘、ファネットの眼光……気になりだしたカーク局長はファネットの身辺調査を開始しました。ハッキングによってフランスの市民籍データベースを検索したところ、ファネット・ゴベールの登録は10年前で4歳のときにゴベール夫妻の養女になっていました。実の親は不明です。
 
さらにハッキングによってドーピング検査の結果もわかりました。ファネットにはアルコールに弱いという極東民族固有の特徴がありました。決定的証拠とはいえませんが傍証にはなります。Gの外見的特徴もまさに極東民族のそれです。
 
ハッキングができてもネットで手に入る情報には限界があります。ファネットとGの関係について、ここから先はファネット自身に直接接触するしかありません。

 
カーク局長はマクレラン長官にファネットと接触する許可を求めました。
 
 「彼女に接触して、もし"Gの娘"でなかったら、どうする気だね……?」

 「Gに首輪を付けようとしていたなんてことがバレたら……ホワイトハウスは蜂の巣です。」
 

もしバレたら、ホワイトハウスは一個師団(=ゴルゴ13)に襲撃されることになります。そのとき、責任を問われるのはマクレラン長官です。マクレラン長官にとってはとんだ貧乏くじです。ため息も出ようというものです。でも許可しないわけにはいきません。上司はつらいです。

 
 

PART 1 スザナという女
ファネット・ゴーベルは夢に出てくる世界を探してモンマルトル西南部の繁華街を彷徨っていました。学校は無断欠席です。
 
ファネットは路地裏で1枚の古びたポスターを見つけました。"ハンガリー狂詩曲"というバーのポスターです。ポスターには店で働く女の子たちの写真の下に2枚の顔写真が張られていました。1枚は店長のアルトゥール・セル、もう1枚はヘゲドゥシュ・スザナというバイオリニストの写真です。スザナには涙ぼくろがあります。なんとファネットの夢の中に出てくるあの女性ではありませんか。
 
ファネットは、自分とそっくりな容姿といい、バイオリニストという音楽の才能といい、スザナが自分の本当の母親ではないかと思わずにはいられませんでした。
 
10年前のことです。この地域のショバ争いでとんでもない惨劇が起きていました。バー"ハンガリー狂詩曲"がギャングに襲撃されて店の女の子達が皆殺しにされたというのです。店長も殺されて店はつぶれてしまいました。たまたま居合わせた住民からそんな話を聞かされたファネットは、10年前に自分がこの場所にいたことを確信しました。住民の話は、ファネットがいつも見ている恐ろしい夢そのものです。
 
ファネットは自分の出自に関する手がかりについて訊きたいことがありました。しかし、邪魔が入りました。怪しげな3人の男がファネットを捕まえに来たのです。ファネットは本能的に危険を感じました。車に乗るようにと促す男に、従順に従うように見せかけて一瞬のスキをついて逃げ出しました。

   
 

PART 2 戦闘
老朽化した空きビルで、ファネットと3人の男の戦闘が始まりました。ファネットは競技用のライフルで応戦しましたが化学兵器のガス弾でやられてしまいました。ガス弾で眠らされたファネットを車に乗せて男たちは去っていきました。ファネットが"G"の娘であるかどうか、DNA鑑定をするつもりです。
 
 


PART 3 意識回復
ファネットはパリ郊外の枯れたブドウ園の廃ワイナリー(ワイン工場)に連れてこられていました。ソファの上で意識を回復したファネットはあたりを見回しました。部屋に見張りはいません。カギ穴から外を覗くとブドウのつるが見えます。周囲は広大なブドウ畑です。部屋から脱出するのは簡単でも周囲が広大なブドウ畑では隠れる場所がありません。すぐ見つかってしまいます。
 
下手に動いてもムダ……どうすればいいのか、ファネットは考え込みました。何か名案が浮かんだでしょうか。
 
 

PART 4 心配する両親
パリ郊外のゴベール邸ではファネットの両親が、学校を無断で欠席してその後連絡が取れなくなってしまったファネットを心配していました。

行方不明のファネットは誘拐されたのではないか、警察に通報すべきかどうか、通報するとファネットが殺されてしまうのではないか、いやすでに殺されているかもしれない……不吉な予感がファネットの両親を苦しめていました。
 
 
その夜、ゴベール邸にひとりの男が現れました。ゴルコ13です。何をしに来たのでしょうか。ファネットに会いに来たのでしょうか。見るからに怪しいゴルゴ13はファネットの両親から誘拐犯と間違われないでしょうか。

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2016年5月11日 (水)

「ゴルゴ13」第562話「Gの遺伝子 前編」を読む

PART 1 死神の夢
フランスのパリに、私立サン・リュカ中学校という名門のお嬢様学校があります。この中学校にファネット・ゴベールという眼光の鋭い女生徒がいました。絶世の美少女です。左目の下に泣きぼくろがあります。

ファネットの夢の中に出てくる女性も左目の下にほくろがあります。この女性はファネットではなく明らかに大人の女性です。おそらくはファネットの実の母親です。

ファネット・ゴベールはライフル射撃の名手です。その腕前は中学生ながらオリンピック級です。いや、実際はそれ以上で狙った的を射抜く正確さはオリンピックのレベルさえ超えているかもしれません。同級生たちはファネットのことを"聖なる怪物"と呼んで、尊敬と憧れの眼差しで見つめています。
 
ファネット・ゴベールは体操にスカッシュ、テニス、ジュード―とあらゆるスポーツ競技の万能選手です。どの分野でもその実力はトップレベルです。それでもファネットはライフル以外に興味を示すことはありません。ファネットがその他のスポーツを行うのは、あくまでもライフルの基礎技術を鍛えるために必要だからです。

ファネット・ゴベールが優れているのは運動能力だけではありません。学業成績も優秀です。去年、史上最年少タイで、すでに大学入学資格(バカロレア)を取得しています。知能指数は180です。
 
知能指数は130以上70以下は異常値と言われています。Wikipediaは130以上の知能指数について、次のように解説しています。

130以上の場合、その人間の英知はすさまじく強くなり、周囲をその思考回路で圧倒し、場合によっては相手の気を失わせてしまう。また、様々な超絶的な能力を少なくとも一つは持ち、その分野において、同じ高いほうに異常値で、その分野が得意の人と遭遇しない限り、絶対的な権力を持ち続ける。

140以上の場合は更にそれが顕著になり、周囲の人々はそのオーラに圧倒され、そしてその後畏怖と敬意を感じ、「天才」と呼称する。その頭脳が暴走した場合、一般人が束になっても返り討ちになることが多く、同様の高いほうに異常値の人間を数人もしくはその人よりもIQが高い人間を連れてくるしかない。しかし、異常値の人間そのものが希少なため、対応が遅れると大惨事を招くこともある。

160以上の場合は、その能力ゆえに周囲から危険視されることも多い、事実上最大限にその頭脳能力を発揮した場合、周囲はおろか国家単位で破滅の危機に陥れる危険性もはらんでいる。もちろん、逆に活用できれば、それはあらゆる人々に幸福を与える救世主・神ともなりえるのである。しかし自分で160ものIQをコントロールするのは非常に難しく逆にIQに身体がコントロールされる事もあるという。

200以上の場合、現代では幼年期は国家や企業に献体的にもてあそばれる。青年期にもなると、己の人生・哲学・エネルギーを完全にコントロールし人類への究極の利益、究極の幸福を探究し、IQを隠し凡人として静かに暮らす例も多い。

例:10歳で大学を首席で卒業後、小学校に凡人として戻り部活に励む。 莫大な予算を自由に使える研究機関を退職し、田舎の保育士になる。等

また、神である自分を隠すため、地域に根ざしたもっともポピュラーな宗教を選択し、神への信心行為をたしなむ傾向がある。

スポーツ万能、知能指数180……まだあります。ファネット・ゴベールは習っているわけでもないのにピアノの腕がプロ級です。さらに美術に関してもその特異な才能が認められています。パリ学生絵画展では"ゴルゴダの呼び声"というタイトルの宗教画風作品で金賞を受賞しました。受賞作は現在"モンマルトルの丘美術館"で公開されています。

 
芸術記事の評判が高い日刊紙『キニコス』の記者がパリ学生絵画展での金賞受賞を機に、噂の天才少女ファネット・ゴベールの取材にやってきました。

『キニコス』の記者がファネットに質問しました。

 「まるで昔の東欧の宗教画のような、凄みが感じられます。どんな画家の……どんな画風に影響を受けたのでしょう?」
 

ファネットは無表情のまま淡々と事実だけを述べました。

 「美術の授業で"昨夜見た夢を描くように"と言われ、幼いころからよく見ていた死神の夢をまた見たので描いたのです。先生が絵を見て、タイトルを考えて出品されたのですが、私は、ライフル以外興味がなくて絵の事はよくわからないのです……すみません……」
 
 

PART 2 奴は日本人?
数日後、モンマルトンの丘美術館に1人の男が現れました。ゴルゴ13です。ゴルゴ13は日刊紙『キニコス』に掲載されたファネット・ゴベールの記事を見て、パリ学生絵画展金賞受賞作"ゴルゴダの呼び声"に異常な関心を示しました。
 
ゴルゴ13は、美術館の館長に10万ユーロ(約1200万円)を払って閉館後の美術館を貸し切りにしてもらいました。そして"ゴルゴダの呼び声"を一人でじっくり鑑賞(?)していました。

 「パリ学生絵画展金賞……"ゴルゴダの呼び声"……この絵に間違いない……」

"ゴルゴダの呼び声"……ゴルゴ13には絵画に描かれているシーンに見覚えがありました(たぶん)。

作者のファネット・ゴベールが14歳の少女だという事を知って、ゴルゴ13はどこか感慨深げでした。ファネットは自分の娘かもしれない……ゴルゴ13には思い当る記憶がありました(たぶん)。
 


 
PART 3 ウサギのように臆病
ファネット・ゴベールはパリ郊外の豪邸に住んでいます。父のジャン・ミッシェル・ゴベールは大病院の院長です。ジャン・ミッシェルは人道主義者のようでお金のない人には無料で診察もしています。

10年前、つまりファネットが4歳のとき、ファネットは銃で撃たれて生死の境をさまよったことがありました。左腕には当時の傷痕が残っています。父のジャン・ミッシェル・ゴベールはライフルにしか興味を示さない娘ファネットの性癖を次のように解釈していました。

 「あの子は、10年前の事を忘れているが……恐らく記憶の底には残っている……ライフルを趣味にしているのは、男勝りの気の強さから来るものなどではなく、トラウマのせいでウサギのように臆病になったんだ。心の拠り所なんだよ、ライフルが。」
 

 

PART 4 卓越した腕
ファネットの写真が日刊紙『キニコス』に掲載されてしまったことで、母親のイレーヌは娘が誘拐されはしないかと心配していました。母が心配してくれることは嬉しい……でも……ファネットは自分の心の中を内省していました。

 「両親は、優しい……なのに愛されるほど自分の居場所はここではないような気がするのは、何故だろう……自分が本当の自分でないような焦燥感がある……」

ファネットは優しい母親が実は自分を生んでくれた本当の母親ではないことに無意識のうちに気がついていました。とにかくファネットは父親のジャン・ミッシェルとも母親のイレーヌともまったく似ていません。ファネットは眼光の鋭い目の覚める美少女です。それなのに両親はジャガイモかカボチャみたいな顔をしています。

物思いにふけっていたファネットは、ふと庭に二人の怪しい人影を見つけました。金銭目当てに忍び込んだ不法移民の二人組です。ファネットはこれまで人に銃口を向けたことはありませんでした。しかし今は緊急事態です。両親と自分を守るためには強盗と思しき二人組を撃退しなくてはなりません。ファネットはライフルを構えました。

ファネットが所有しているライフルは競技用で殺傷能力は脆弱です。競技用のライフルでは致命傷を負わせることはできません。また中途半端な狙撃をすると強盗が逆上して襲いかかってくる恐れがあります。下手な狙撃はかえって危険です。競技用のライフルで強盗を撃退するためには、強盗に最大限のダメージを与える確実な狙撃が必要です。ファネットにはそれを実行できる卓越した腕がありました。
 

 

PART 5 Gのルーツ
米国のシリコンバレーにアラクネットというIT企業の本社があります。表向きはゴシップ記事専門の配信会社ですが、内実は極秘で通信の監視をしている国家安全保障局(NSA)のPRISMシステム管制局です。

このPRISMシステム管制局のカーク局長のもとに国家安全保障局のマクレラン長官が訪れました。

電話やメールはすべてだれかに盗聴(盗読?)されていると考えるのがインテリジェンスに携わる人間の常識です。また、どんなに難解な暗号でも解読されてしまう恐れがあります。暗号も絶対安全とはいえません。そこでセキュリティ面で一番安全な情報伝達手段は、紙のメモの手渡しということになります。
 
マクレラン長官を局長ごときが呼び出したことを恐縮しながらもカーク局長は重要情報が書かれた資料をマクレラン長官に手渡しました。
 
その資料には、PRISMシステム管制局が何年にも渡って探し続けていた"ゴルゴ13のルーツ"に関する情報が書かれていました。正確には"ゴルゴ13のルーツを暴く鍵"の情報です。

カーク局長は、『キニコス』に掲載されたファネット・ゴベールの記事に関心を示し、ファネット・ゴベールのことを徹底的に調査したようです。

カーク局長は、ファネット・ゴベールはゴルコ13の遺伝子を持つ"Gの娘"という驚愕の事実に辿り着きました。

   
   

PART 6 ファネットの記憶
昨夜、フャネットは初めて人を撃ちました。強盗を撃退したことは両親には内緒です。心配をかけたくないからです。人を撃った体験がファネットに忘れていた記憶を蘇らせました。

 「夢の中では、ぼんやりとしか見えなかった死神の姿が……写真の様にはっきりと見えた! いつも見ていた"死神の夢"は、凄惨な虐殺現場の記憶に基づくものだった……その記憶が、今、確かなものとして蘇った……!!」

フャネットは核心に迫る独白を続けます。

 「善良な医者の両親のもとに生まれた私に、何故あんな記憶があるのだろう……?私は本当は、何者なんだろう?私によく似たあの女……あの女を殺した死神を……懐かしく感じるのは何故なんだろう?」

それはね、あの死神があなたのお父さんだからですよ。
 
 

   
PART 7 まさか娘とは……
NSA(アメリカ国家安全保障局)のマクレラン長官とPRISMシステム管制局のカーク局長はゴルゴ13に"首輪"をつけようとしていました。

ふたりはファネット・コベールがゴルゴ13の娘であると確信しました。そこで、ファネットを人質にしてゴルゴ13を操縦しようと考えました(たぶん)。果たしてうまくいくでしょうか?
 
 
今後「Gの遺伝子」がどういう展開になるにしても、ゴルゴ13がファネットを射殺するというシーンだけは勘弁してほしいです。できれば、驚愕の事実を知ってしまったNSAの二人を射殺するという展開を期待したいです。でもファネットは長く生きることが許されない運命なのかもしれません。美人薄命というからね。
 
本当にファネットはゴルゴ13の娘なのかどうか……99%確実でも真実は闇に包まれたまま終わってしまうというのがいつものパターンです。

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2016年4月25日 (月)

「ゴルゴ13」第561話「The Great Game ザ・グレートゲーム 後編」を読む

中国の馬外交副部長は捕らえられてリドキスタンの大統領官邸に監禁されてしまいました。非主流派の馬はたとえ殺害されても中国政府には黙殺される運命にあります。馬の処刑によってロシアと中国の関係がこじれることありません。

 
グルカ兵を殲滅してすべてはロシアのラスキン安全保障担当書記の思惑通りに事が運んでいるかに見えました。ところがそのラスキンの暗殺をゴルゴ13に依頼した人物がいました。何と日本の吉村国家安全保障局長です。

 「海外で武力行使ができない我が国が使えるオプションは限られていますからね……」

昨日の依頼主が今日の標的……日本もなかなかやるじゃないの。
 

グルカ兵の襲撃は殲滅できても、ゴルゴ13に狙われたら生き延びることはできません。ロシアの特殊部隊もゴルゴ13の前では赤子も同然です。

ゴルゴ13はたったひとりで大統領官邸を襲撃しました。ロシアの特殊部隊はたったひとりの襲撃なのに中国軍が攻めてきたのかと勘違いしていました。

馬は部屋を飛び出したところで流れ弾に当たって絶命、ラスキンはゴルゴ13に眉間を撃ち抜かれて絶命しました。
 

この"The Great Game"でひとりだけ生き残った日本の吉村国家安全保障局長にはロシアが刺客を差し向けました。吉村は通勤途中の電車内で殺害されました。吉村の心臓には、ロシアの報復であることを顕示するかのように、ロシア製のナイフが突き刺さっていました。「舐めた真似をするとこうなる」というロシアの意思表示です。

吉村殺害の知らせを受けた安倍似の安川首相は青ざめた顔で呟きました。

 「……ロシアの報復か……これが……米国の傘を離れた"独自外交"の現実なのか……」
 

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2016年4月11日 (月)

「ゴルゴ13」第561話「The Great Game ザ・グレートゲーム 中編」を読む

リドキスタンは架空の国ですが、リドキスタンの大統領官邸はトルクメニスタンの大統領宮殿にそっくりです。それに天然ガスの生産量や輸出量から判断するとモデルになっているのはトルクメニスタンみたいです。

天然ガスの生産量(2014年) 
 順位      単位百万立方メートル   
 11 トルクメニスタン   69271
 15 ウズベキスタン   57291
 31 カザフスタン     19251

天然ガスの輸出量(2014年)
 順位          単位百万ドル
 11 トルクメニスタン   13400
 25 ウズベキスタン    2084
 26 カザフスタン      1884

ちなみに天然ガスの輸入国ベスト3は、
 順位          単位百万ドル
  1 日本        74213     
  2 ドイツ        44029
  3 韓国        31424
 
 
 
 
PART 1 ラスキンの狙い
リドキスタンの政府ナンバー2は、タジモフという男です。前編でマリコフ大統領に、「中国は油断のならない相手です。中国への依存を深める事は、我が国の主権を危うくします。」と進言していたあの男です。
 
リドキスタンの大統領官邸では、このタジモフを中心に幹部らがマリコフ大統領亡き後の対応を協議していました。

 「大統領の死去は、まだ発表するな…イスラム過激派の蜂起に備えて、明朝に戒厳令を発令する!」

しかし、すでにマリコフ大統領が暗殺された事実はイスラム過激派に知られていました。ロシアのラスキン安全保障担当書記が情報を流したのです。

突然イスラム過激派が武装蜂起してリドキスタンの大統領官邸を襲撃してきました。

 「や、奴らは大統領官邸を占拠して、一気に政府転覆を狙ってくるぞっ。すぐ、軍に出動命令を出せっ!!」

 「敵は迫っており、軍は間に合いませんっ!!当面は50名の警備隊だけで、凌がねばっ!!」

大ピンチです。リドキスタンは政府崩壊の危機を迎えていました。ところがそのとき、タイミングよくロシアの特殊部隊が現れました。イスラム過激派は一網打尽です。

すべてはラスキンの描いたシナリオ通りに事が運びました。

故・マリコフ大統領の側近だったタジモフは、かつてKGB(旧ソ連の情報機関・秘密警察)の下部組織で働いていたことのある男です。中国に対する警戒心もロシアと共有しています。ラスキンはタジモフを新大統領に据えて、中国の影響力をリドキスタンから排除するつもりです。
 
   

PART 2 マリコフ暗殺の黒幕
日本では首相官邸で吉村国家安全保障局長がリドキスタンの情勢分析を行っていました。

リドキスタンの大統領選挙は親ロシア派のタジモフが圧勝しました。これでリドキスタンは、親中国路線から親ロシア路線へ舵を切ることになります。

マリコフ大統領暗殺以後、情勢はすべてロシアの思惑通りに運んでいました。それにしてもあまりにも話がうま過ぎます。吉村国家安全保障局長は何か裏があることを見抜いていました。

マリコフ大統領暗殺にロシアが関与しているのではないか……状況証拠としては真っ黒です。
 
 
 


リドキスタンの新大統領にタジモフが就任したことによって、石油・化学プラント建設計画は日本の企業連合が"再逆転"受注することになりました。

リドキスタンの大統領官邸でタジモフ大統領と日本の吉村国家安全保障局長の間で調印式が行われたとき、ロシアからラスキン安全保障担当書記も駆けつけてきました。

ラスキンは、日本に対して、成功の果実の分け前を要求してきました。サハリン沖の天然ガス田から北海道へのパイプラインを日本の負担で敷設して欲しいというのです。

しかし、北方領土問題が解決していないため、日本とロシアの間にはいまだに平和条約が結ばれていません。領土問題を棚上げにしてパイプラインの敷設など無理な話です。そんなことをしたら日本の国内で大反対が起きます。一歩間違えれば内閣が潰れるかもしれません。

即答をしぶる吉村国家安全保障局長をラスキンが脅迫してきました。

 「石油プラント建設はすでに契約済み……今後、思わぬ大事故が起きても、貴国は工事を完成させる義務を、負う事になりますがね、ふふふふ……」

逆らうと「"思わぬ大事故"が起きるかもしれませんよ」というわけです。

ここで個人的な意見を述べさせてもらいます。ロシアには、北方領土などさっさと日本に返還して日本と平和条約を締結することをおススメしたいです。北方領土に固執するよりも日本と良好な関係を築いて日本の技術力や経済力をロシアの経済発展のために活用したほうがよほど国益に叶っています。ロシアはなぜそういう選択をしないのでしょうか。
 
北方領土が日本に返還されたからといって、そこに住んでいるロシア人が追い出されることはありません(たぶん)。今まで通りに暮らしていけると思います。いや、むしろ日本に返還されたほうが北方領土の暮らしは便利になるかもしれません。
 
 

 
PART 3 馬(マー)の揺さぶり
ドイツがロシアに対し、天然ガス輸入の段階的削減を通告してきました。最終的には輸入契約の打ち切りです。裏でドイツを動かしたのは中国の馬(マー)外交副本部長でした。不足する天然ガスは中国が格安で提供しますとでも言ったのでしょう。

天然ガスの生産量(2014年) 
 順位      単位百万立方メートル   
 1 米国         728265
 2 ロシア        578733
 3 カタール      177229

財政が逼迫しているロシアはこれ以上天然ガスの生産量を減らすことは不可能です。背に腹は代えられません。ロシアはリドキスタンからの天然ガス輸入を打ち切ることにしました。リドキスタンから天然ガスを受け取ってもダブつくだけで送る先がないのです。

ロシア以上に困惑したのはリドキスタンでした。ロシアに天然ガスの輸入を打ち切られて困り果てたリドキスタンはもっとも警戒していたはずの中国の泣きつきました。

タジモフ大統領は、リドキスタンの中国大使館を訪れ、馬(マー)外交副本部長に天然ガスの輸入量を増やしてもらえないかと懇願しました。
 
すべては馬のシナリオ通りです。馬はリドキスタンからの天然ガス輸入を増量する条件として、ロシアに代わってラジーク空軍基地を中国に貸与するよう要求してきました。

しかしこのときリドキスタンの大統領官邸はロシアの特殊部隊の管轄下にありました。イスラム過激派を掃討した特殊部隊がそのまま居座ったのです。
 
タジモフ大統領がロシアに逆らえない事情を説明すると、馬は不敵な笑みを浮かべて言いました。

 「目には目を、だ!大統領官邸を奪回すれば良いんですな?」
 
馬には直接中国がロシアに対して武力行使することなく大統領官邸を奪回する秘策がありました。傭兵部隊の活用です。

 
 
 
PART 4 吉村、動く
中国とロシアがリドキスタンを巡って覇権争いを展開している一方で、日本の吉村国家安全保障局長はトルコを訪れていました。吉村はトルコの大統領(?)に次のような提案をしました。

 「日本の企業連合が受注しているリドキスタンの石油・化学プラント建設に、貴国の建設会社の参加をお願いしたい。貴国と二人三脚で、中央アジア戦略を進めたいのです。」
 

吉村が石油・化学プラント建設にトルコの建設会社を引き込んだのは、ロシアが"思わぬ大事故"を起こす恐れがあったからです(たぶん)。日本だけでは大事故が起きても泣き寝入りになってしまいます。しかしトルコが絡んでいればロシアもあまり無茶なことはできなくなります。

吉村はトルコに対してもう一つ何かを提案(?)しました。今のところその内容は不明です。
 

 
 
PART 5 英国への依頼
英国は米国の反対を押し切って中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)に加盟してしまいました。また中国製原子炉の導入など約7兆4000億円におよぶビジネス案件の契約を中国と締結しました。最近の英国は中国にすり寄ろうとする姿勢が鮮明です。中国は中国で英国を「一帯一路」経済圏構想の終着点と位置づけています。

英国が中国をどのような国と考えているのかわかりませんが、今のところは両国の関係はかつてないほど良好です。

中国の馬(マー)外交副本部長は北京からロンドン(?)に国際電話をかけていました。電話で誰と話をしているのかわかりませんが、馬は電話の相手に対してグルカ兵部隊を紹介して欲しいと依頼していました。グルカ兵にリドキスタンの大統領官邸を襲撃させるつもりです。
 
この「グルカ兵」について、Wikipediaは次のように解説しています。

成り立ち
19世紀、ネパールとイギリス東インド会社軍との3度にわたる戦争(英・ネパール戦争)の停戦条約が締結される際に、ネパール山岳民族特有の尚武の気性と白兵戦能力、宗教的な制約が小さい点(ヒンドゥー教徒のインド人は宗教的な制約が多いため近代戦の兵士に向かず、運用に不自由をきたしていた)に目をつけたイギリス東インド会社は、グルカ兵が傭兵として同社の軍に志願することをネパールに認めさせた。

その後、セポイの乱が発生すると、ネパールは14,000人のグルカ兵を派遣し、イギリス軍が行った鎮圧戦で大きな戦力となり、後に発足した英印軍では、シク教徒・ムスリム系インド人・パシュトゥン人などとともに重要な地位を占めた。その後も第二次世界大戦においては日本軍とも交戦した他、イギリス連邦占領軍として日本の占領任務や朝鮮戦争にも従事した。

現在
以上の歴史からイギリスやイギリス連邦諸国との繋がりが深い。イギリス陸軍にはグルカ兵からなるグルカ旅団があり、2005年現在、イギリス軍に従軍しているグルカ兵は約3,600人である。非常に勇猛なことで知られフォークランド紛争など、イギリスが関わる戦争や紛争地域への派兵で先遣隊として派遣されることが多い。フォークランド紛争時にはグルカの兵が攻めてきたと聞いて逃げ出すアルゼンチン部隊もあったという。

イギリス本国や植民地(1997年以前の香港)、ブルネイなどのイギリス連邦諸国に駐屯しているほか、マレーシア軍、インド国軍、アメリカ海軍、シンガポール警察にも雇用されている。この様に現在もイギリスの信頼は非常に深く、2004年には、イギリスのブレア首相によって、イギリス軍で勤務したグルカ兵は、完全なイギリスの市民権を付与されるようになった。

一方で冷戦の終結により、イギリス軍の部隊縮小計画で若いまま退役したグルカ兵が、シエラレオネ内戦などの紛争で傭兵として参加していることが問題になったという。

詳しくは → https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%AB%E5%85%B5


 
 

PART 6 露軍VSグルカ兵
馬の依頼によってグルカ兵はリドキスタンの大統領官邸を襲撃しました。しかし勇猛なグルカ兵も徹底的に訓練されたロシアの特殊部隊には勝てません。激しい戦闘の末、殲滅されてしまいました。

グルカ兵が狙ていたのは官邸にいたロシアのラスキン安全保障担当書記です。ラスキンは間一髪のところで命拾いをしました。馬が想定していたよりもロシアの特殊部隊は強力でした。
 

PART 7 そして馬は……
馬はリドキスタンでラスキン暗殺の知らせを今か今かと待っていました。しかし馬にもたらされたのは暗殺失敗の知らせでした。計画が失敗に終わったことを知った馬は、慌ててリドキスタン国際空港に向かいました。国外に脱出するつもりです。しかしすでに遅しです。空港では警察当局(?)が馬を待ち受けていました……。

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2016年4月 6日 (水)

「ゴルゴ13」第561話「The Great Game ザ・グレートゲーム 前編」を読む

中国の習近平国家主席が提唱した「一帯一路構想」というのは、「シルクロード経済ベルト」と「21世紀海上シルクロード」の2つで構成されています。中国を中心としたユーラシア大陸全域に広がる広大な経済圏構想です。
 

PART 1 安川の目論み
中国の膨張を恐れる日本の安川首相は吉村国家安全保障局長(外務省の別動隊)を伴って中央アジア・リドキスタン(架空の国・モデルはカザフスタンか?)に向かっていました。
 
安川首相は石油と天然ガス資源に恵まれた中央アジアの要の国・リドキスタンと友好関係を築いて中国の中央アジアへの膨張を食い止めようとしていました。何を考えているのか中国封じ込め作戦です。
 
 


PART 2 一致する思惑
安川首相は成長戦略の一環として「トップセールス」に熱心です。日本の優秀な技術力を首相自らが先頭に立って売り込もうというのです。安川首相は日本企業の経営陣を引き連れて世界中を飛び回っています。
 
リドキスタンの訪問でも多くの日本企業のトップたちを同行させていました。安川首相がリドキスタンのマリコフ大統領に提案したのは国営の化学会社の設立です。豊富な天然資源をそのまま輸出するよりも製品化して付加価値をつけて輸出したほうが儲かるというのです。

 「中核となる石油化学プラントの建設を始め、化学会社の設立・経営については、世界で活躍する我が国の優秀な企業が連携し……責任を持ってサポートさせて頂きます。」

安川首相はこうも付け加えました。

 「石油、天然ガスの大半はパイプライン経由で、ロシアと中国に輸出している。いわば両国に命運を握られている訳ですが、この化学会社は経済的、政治的自立への第一歩となるはずです!」

安川首相のセールストークにマリコフ大統領は身を乗り出して聴き入っていました。

 


PART 3 手土産の中身
江沢民が支配していた上海黄華石油集団の菫事長・馬は石油閥のエースとして将来を嘱望されていました。しかし、江沢民と対立していた習近平が政権を掌握すると、途端に粛清の標的にされてしまいました。

公安警察に拘束された馬(マー)は国務院中央書記処で、劉常務書記の尋問を受けていました(国務院中央書記処には実際に劉雲山という常務書記が実在します。江沢民、胡錦濤、習近平と政権が交代しても、どの派閥とも良好な関係を築いているという不思議な人物です)。

劉常務書記は馬の能力を高く評価していました。反主流派として葬り去るよりも、主流派に取り込んでその能力を発揮してもらいたいと考えていました。

 「君が粛清から逃れ、主流派入りするためには手土産が必要だ」

劉常務書記は「手土産」として、馬に戦略上の要衝である中央アジア(リドキスタン)の攻略を命じました。馬の役職は外交部副部長です。
 
 
 
PART 4  賄賂
ロシアではプーチン(?)大統領が側近のラスキン安全保障担当書記と外交・安全保障問題を協議していました。大統領は中央アジアに進出しようとしている中国の動きにイライラしていました。

中央アジアはロシアの裏庭のようなものです。その裏庭に手を突っ込むとは我慢がなりません。憤懣やるかたないといった感じの大統領をなだめてラスキンが言いました。

 「まあまあ、私がリドキスタンに向かい、友好関係を壊さずに中国の進出を食い止めましょう。」
 

 

リドキスタンの大統領官邸では、マリコフ大統領が中国の馬外交副部長を出迎えていました。中国側の希望とはいえ、たかが次官クラスの出迎えを大統領の自分がしなくてはいけないのか、マリコフ大統領は少し不機嫌でした。

マリコフ大統領が不快感を抱くであろうことは馬外交副部長にとっては計算済みです。そんな不快感など賄賂攻勢で簡単に吹き飛んでしまいます。

馬外交副部長が賄賂として用意したのは、改造型メルセデスの最高級車種・マイバッハ(推定1億円)と現ナマ(推定5億円)です。恥を知らない品性下劣の男は賄賂に弱いです。
 
馬外交副部長は、建設コストの2割削減とAIIB(アジアインフラ投資銀行)による全額融資という条件をエサに、日本企業が仮契約を結んだ石油プラント建設計画を横取りしました。賄賂が効いたのかもしれません。マリコフ大統領はあまりの好条件に目がくらんで契約先を日本から中国に乗り換えてしまいました。


 
PART 5 中VS露
リドキスタンの大統領官邸で、マリコフ大統領とロシアのラスキン安全保障担当書記が、リドキスタン空軍とロシア空軍が共同使用しているラジーク空軍基地をめぐって会談を行っていました。マリコフ大統領はロシア空軍に対してこれまで無償で貸与していたラジーク空軍基地に対して、これからは年間5億ドルの使用料を支払うよう要求してきました。
 
 「こちらの条件をのめないようであれば、ロシア軍には基地から出て行ってもらう。」
 

ラジーク空軍基地は、ロシアにとって「中央アジアはもとより、中東、南アジアに睨みをきかせる」重要な軍事施設です。絶対に手放すわけにはいきません。
 
出ていくか、5億ドル支払うか、ラスキンは即答を避け、本国に持ち帰って検討することにしました。猶予期間は1か月です。

ラスキンがまず向かったのは中国でした。マリコフ大統領はなぜ突然高飛車な態度に出てラジーク空軍基地からロシアを追い出そうとするのか……ラスキンは背後で中国が糸を引いているのに違いないと考えました。中国の軍事的野心の臭いが濃厚です。

ラスキンは北京を訪れ、馬外交部副部長に中国の真意を質そうとしました。しかし馬の態度は国力の違いを見せつけるかのように冷淡でした。

 「友邦であっても、我が国の外交政策に対する干渉は無用です。残念ながら、もう貴国は超大国ではありません。米国に対抗できるのは……我が国だけです。賢明なあなたであれば我が国との友好関係こそが貴国の命綱であることは、おわかりのはずです。我が国の世界戦略に協力して……米国に対抗することが、貴国の国益に叶うと思いますがね。」
 

馬外交部副部長は完全に上から目線です。斜陽国家はつらいです。しかしこのままおめおめと中国のいいなりになるのはロシアのプライドが許しません。ラスキンはとんでもない次の一手を考えていました。

 


PART 6 ラスキンの秘策
リドキスタンの空港に見覚えのある一人の男が降り立ちました。何とゴルゴ13です。

 

 
PART 7 テロ発生!
リドキスタンでは、新しく完成した大統領公邸に中国の馬外交部副部長が招かれていました。これから中国が受注に成功した石油・化学プラント建設計画の契約調印式が行われる予定です。しかし馬外交部副部長の目の前でマリコフ大統領は暗殺されてしまいました。警備兵に変装していたゴルゴ13の仕業です。

目的のためには手段を選ばず、中国は賄賂を使い、ロシアは暗殺を企てる……何となくお国柄が表れています。
 
独裁者・マリコフ大統領が暗殺されたことによって、リドキスタンは大混乱に陥ります(たぶん)。政府軍と反政府軍が対立して内戦が始まるかもしれません。この第561話が結末を迎えるためには、ゴルゴ13にもうひと働きしてもらわなくてはなりません。今度は誰が暗殺されるのでしょうか……。

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2016年3月12日 (土)

「ゴルゴ13」第560話「縄文の火 後編」を読む・一本取られた!!

ゴルゴ13に言われてしまいました。

 「独りよがりの人間社会が考え出した"善・悪"で、俺は動かない……"自分がどう考えるか"で、俺は動いている」

耳が痛いッス。まさかゴルゴ13が善人・藤山の暗殺を引き受けるとは思いませんでした。
 
依頼を引き受けるかどうか、ゴルゴ13の判断基準というのは、自分の仕事が依頼主に報酬金額に見合うだけの利益をもたらすかどうかでした。"善・悪"は関係ありませんでした。てっきり藤山の暗殺はないだろうと考えていたのですが一本とられました。
   

雷雨の中、ゴルゴ13は避雷針を設置して拳銃を発射しました。落雷の危険を避けるためです。暗殺現場を訪れた但馬教授は、ゴルゴ13が避雷針を設置していた事実を知って考えました。
 
 四内外山遺跡の謎めいた巨大な掘立柱は避雷針を設置するためだったのかもしれない……

はたして紀元前の縄文人が避雷針によって落雷が防げるという事実を知っていたかどうか疑問です。しかし但馬教授は"掘立柱は避雷針"という考えを世紀の大発見ではないかと思い込んでしまいました。
 
但馬教授は自分の考えが正しいことを証明するために寝食を忘れて研究に没頭しました。徹夜徹夜の連続です。但馬教授は心臓が悪い上にヘビースモーカーです。とうとう心臓発作を起こして死んでしまいました……。

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2016年2月27日 (土)

「ゴルゴ13」第560話「縄文の火 前編」を読む

PART 1 藤山の思い

青森県の三内丸山遺跡(広さは東京ドーム7個分)には「縄文時遊館」という資料館が併設されています。縄文時遊館では出土品の展示のほかに様々なイベントが催されています。

第560話「縄文の火」に出てくる四内外山遺跡はこの三内丸山遺跡がモデルになっています。四内外山遺跡に併設されている「縄文まほろば遊学館」は「縄文時遊館」がモデルです。「ゴルゴ13」はフィクションですが、虚実が微妙に入り混じっています。後に出てくる山梨県の津金御所前遺跡は実在する遺跡です。

さて、第560話です。縄文まほろば遊学館で夏休みの自由研究のために集まった中学生を相手に、縄文文化について熱く語っている四十がらみの男がいました。藤山まさひと(仮)です。藤山は縄文文化の研究をしている在野の考古学者です。タラコ唇でなければけっこうイケメンですが、無精ひげを生やしていていかにも貧乏くさい男です。
 
藤山には但馬祥太郎という恩師がいました。但馬は帝都大学の教授で著名な考古学者です。その但馬の講演会が青森市文化会館で開催されることが決まりました。
 
講演会の開催を知った藤山は久しぶりにかつての恩師に会いたくなりました。藤山は但馬教授に電話をしました。しかし但馬の反応は冷淡でした。

 「講演会は初心者相手のものだから、来なくていいよ藤山君……」
 
 「でしたら、その後でお酒でも……先生と久しぶりに、お話がしたいので……」
 
 「悪いが忙しいんだ。また今度にしよう……」

電話は一方的に切られてしまいました。但馬は露骨に藤山との接触を避けていました。
 

藤山は中学生のときに但馬教授に言われた言葉を思い出していました。

 「先生は私に、こう語った。"研究において、君と私は対等なんだよ……君が縄文のことを一生懸命考える、私も一生懸命考える。そこに差はない"」

藤山はこの言葉に励まされて縄文文化の研究に取り組みました。縄文文化の研究はいまや藤山にとってライフワークになっています。藤山は研究一筋の生活を送っています。まだ独身です。アルバイトをしながら安アパートで質素な暮らしを続けています。
 
 
藤山には但馬に会ってどうしてもはっきりさせておきたいことがありました。藤山は嫌がられるのを覚悟で「来なくていい」と言われた講演会に出かけていきました。

 


PART 2 修復を巡る論争

青森市文化会館で「縄文文化とは何か?」と題する但馬教授の講演会が催されています。講演会に聴衆として参加した藤山は、講演終了後に但馬教授を半ば強引に食事に誘いました。但馬教授はいかにも迷惑そうでしたが本人を目の前にしては無下に断ることもできません。しぶしぶ食事に付き合うことになりました。
 
藤山と但馬教授は発掘された土器や土偶の修復に関しての見解が対立していました。但馬が藤山と接触するのを避けているのはそのためです。

 「……土器や、土偶の欠損部分を境目もなく結合し、アクリルできれいに塗装する……先生は、あの修復をどうお考えですか?」

 「それは、以前にも話したはずだ。」

 「もう一度聞かせて下さい!」

 「縄文人の気持ちを理解するには、なるべく、その当時の状態に近づけるべきだ。」
 
 「そうでしょうか?出土した状態のままの方が、過去の年月を思えて、良いのではないでしょうか?」
 
 「そんな事はない!修復によって生き生きと蘇らせる。その事で縄文文化の良さがわかるのだ。」

 「しかし、それは学問の領域を超えているのでは?」
 
二人の見解はどこまで行っても平行線です。藤山には但馬教授が過剰な修復にこだわる真意がわかりません。藤山は但馬教授が文化財修復業者から賄賂をもらっているのではないかと疑念を抱くようになりました。
 
 
 
PART 3 謎のアメリカ人

来日したアランというアメリカ人が藤山に会いたいと言ってきました。アランも考古学者です。藤山の論文を読んで興味を持ったというのです。藤山は新幹線の改札口までアランを出迎えに行きました。
 
 

PART 4 アランの正体

藤山はアランに四内外山遺跡を案内しました。アランは藤山の説明にいちいち頷いて賛同していました。特に展示場の縄文土器には「エクセレント!素晴ラシイ!」を連発して目の色を変えていました。

二人は考古学者同士意気投合していっしょに夕飯を食べることになりました。藤山が青森の郷土料理を紹介したいと申し出たのに対して、アランはすでに寿司店を予約していると言い出しました。

藤山がアランに連れていかれたのは老舗の高級寿司店です。アランはどうやらこの寿司店が初めてではないようです。高そうな寿司を頬張ってくつろいでいるアラン見て藤山は何だか不安になってきました。
 
寿司店を出てからアランは藤山のボロアパートにやってきました。アランが藤山に接触してきたのは縄文文化を研究している藤山が所有している出土品を買い取って転売して儲けようとしていたのです。

 「土偶ヤ土器ハ一級ノ美術品ナノデス。今マデハ、ソレホド注目サレテキマセンデシタガ、コノ10年デ、コレクションヲ始メル者ガ、タクサン出テイマス……1千万円程度ナラ、スグニ売レテシマイマス!物ニヨッテ1億円モアリウル。デスカラ、ゼヒ藤山サン二、ゴ協力シテイタダキタイノデス!」

アランは手付金(?)を置いていこうとしました。しかし考古学の貴重な出土品を売るなど言語道断です。だいたいそんな貴重な出土品を藤山は持っていません。純朴でバカ正直な藤山は金を受け取らずにアランを追い返してしまいました。
 
 

PART 5 但馬の焦燥

縄文土器や土偶はアメリカやヨーロッパのオークションで高額取引がされていました。中には1億9千万円の値がついたものもありました。こうした縄文土器や土偶は日本人の研究者が横流ししていたのです。

そのことに気がついた藤山は、出土品の転売を商売にしているアランは自分以外にも日本人の研究者に接触しているに違いないと思いました。そのとき、藤山の脳裏に浮かんだのは但馬教授の顔でした……。
 
 
国立帝都大学の但馬教授の研究室に来客がありました。アランです。アランは開口一番「実ハ、藤山サント会ッテマシタ。」と但馬教授に告げました。

驚いたのは但馬教授です。但馬教授は欠損部のある土偶や土器を修復して無傷で発見されたかのように偽って高値で横流ししていたのです(たぶん)。もし但馬教授がアランと関係していることが藤山に知られたら、横流しの事実が公表されてしまうかもしれません。そうなれば、但馬教授の学者人生はお終いです。それどころか詐欺師として犯罪者の烙印が押されることになるかもしれません。
 
 研究者は研究できるだけで嬉しいんだよ

 
金銭は関係ない。まして自分は、縄文文化の研究

 
農耕文化が普及し、貧富の差が生まれる前の時代の人間なんだ。だから、富は求めないんだよ

かつて藤山にこのように語っていた但馬教授も金の魔力には勝てませんでした。アランに唆されて研究者としての魂を売り渡してしまったのです。

 「結局ハ金ガ欲シクナッテシマッタ……人間ハ富ヲ得ルト、変ワッテシマウモノデスヨ……」

 

 

 

前編はここまでです。この流れだと但馬教授が藤山の暗殺をゴルゴ13に依頼しそうですが、藤山の暗殺ならそれほど難しくありません。わざわざゴルゴ13に依頼するというのは不自然です。それに、悪人(?)の依頼でゴルゴ13が善人(?)を暗殺するというのもストーリー的にありそうもないです。
 
はたしてゴルゴ13は誰の依頼で誰を暗殺することになるのでしょうか?前編にはゴルゴ13はまったく登場してきませんでした。

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