2014年12月 9日 (火)

斎藤誠一橋大学教授の「経済教室」(日経新聞朝刊)

本日(12/9)の日経新聞朝刊の「経済教室」は斎藤誠一橋大学教授です。斎藤教授の主張は、まともな経済学者がすこぶるまともなことを言っているという感じです。実に明快です。素人が日ごろ常識的に考えていることをきっちりと理論的に裏付けてくれています。

「15年にわたるデフレ」がマクロ経済政策の失敗ではなく、厳しい国際環境を反映したものだということである。

この主張を換言すると、「15年にわたるデフレ」の原因を日銀の金融政策のせいにするのはやめなさいということだと思います。

「15年にわたるデフレ」が厳しい国際環境の反映だという診断に立ち戻れば、尋常でないマクロ経済政策の発動が政策処方箋となるはずはなかったのである。政策効果がなかったばかりか、国家の債務と日銀の債務(準備預金)というツケを後世に残してしまった。

経済成長やインフレ目標の看板は、政策目標から降ろすべきではないだろうか。日本経済の長期的な動向を踏まえれば、労働市場改革や環太平洋経済連携協定(TPP)などの構造改革の主眼も、実質GDPの成長ではなく、現在の高い生産水準が持続の可能である環境を整備するという方向に切り替えるべきである。

常識的に考えれば、成熟した国家である日本は成長はおろか現状を持続することだってそう簡単ではありません。もっとも、成長を目指さなければ現状維持さえ難しいという考え方もありそうです。だからといって、目先の成長にこだわるあまりこれ以上将来にツケ回しを続けていいものでしょうか。2020年の東京オリンピックのころには日本の財政が大変なことになっている気がします。いや、そろそろ来年あたりから……。

経済全体の文脈から離れたCPIインフレ率の上昇が経済学的な意味をまったく持たないことにも早く気付くべきであろう。

これはまったく素人の常識と一致します。好況が物価上昇をもたらすことはあっても、逆に強引に物価を上昇させたからといって、たとえそれが政策的に可能であったとしても、それで景気が良くなるわけではありません。逆必ずしも真ならずです。

 
政府は、物価が毎年2%ずつ上昇すれば、1000兆円の国の借金が毎年20兆円ずつ目減りしてくれるとでも考えているのでしょうか。かりに物価が毎年2%ずつ上昇し出したとしたら、そのときは金利のほうも黙っちゃいないと思いますけどね。

昨今の原油安や先述の構造改革などの良好な供給要因は、インフレ率をかなり引き下げるが、日本経済の交易条件やその体質を徐々に改善してくれる漢方薬なのである。私たちは、あえて劇薬で熱病に浮かされる必要はないのである。

インフレ要因よりもデフレ要因のほうが、長い目で見れば日本経済にとってはプラスであるという皮肉な結論になっています。

 

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2014年1月16日 (木)

吉川洋の「デフレーション "日本の慢性病"の全貌を解明する」(日本経済新聞出版社)を読む

●この本のテーマは「デフレと金融政策」です。財政問題については考察の対象外です。内容を大雑把に要約すると次のようになります。
 
高度経済成長期は金融を引き締めてもインフレだった。今は金融を緩和してもデフレだ。したがって、経済がインフレになったりデフレになったりするのは、(まったく無関係とはいわないまでも)金融政策とはあまり関係がない。
 
 
デフレは長期停滞の原因ではなく「結果」であるというのが吉川洋の見解です。結論として「(日本経済が)デフレに陥るほどの長期停滞を招来した究極の原因は、イノベーションの欠乏にほかならないのである」としています。



●この本を読んでいてよくわからなかったのはデフレの弊害についてです。1~2%程度の物価の下落が本当にそれほど大問題なのでしょうか。
 
そりゃあ物価が5%も10%も下落したら大変です(名目金利がゼロでも実質金利がそのまま5%とか10%とかになってしまいます)。しかし、通常の実質金利を1~2%程度と考えれば、名目ゼロ金利のもとで1~2%程度物価が下落しても特に問題はないのではないでしょうか。
 
素人感覚では、1~2%程度の物価の下落を問題視して大騒ぎしていることのほうがよほど問題に思えます。かりにデフレがインフレになったとしても(多少実質金利が下がったとしても)、それによって投資や消費が喚起されるとは到底思えません。
 
インフレにしさえすればすべて問題が解決するかのような論調がありますが、日本の経済を強引にインフレにしたところでそのインフレが持続する保証はありません。それにインフレが持続したとしても、今度は1~2%程度の物価の下落とは比較にならない新たな大問題が浮上してくるのではないでしょうか。
 
日本経済に長期停滞を招来した究極の原因がイノベーションの欠乏にあるのだとしたら、重要なのは(プロダクト)イノベーションを喚起する長期的視点に立った政策です(足元のインレフ、デフレはあまり関係ない)。



●この本では貨幣数量説についても批判的にかなり詳しく検討されています。批判の要点を素人の常識で述べさせてもらうと次のようになります。 
 
 1.貨幣の流通速度は一定とする。
 
 2.モノとサービスの供給量に増減はないものとする。
 
 3.モノとサービス以外の株や不動産などは存在しないものとする。
 
 
こうした仮定のもとで貨幣の数量を増やしたらどうなるか……そりゃあ物価が上がりますよ。
 
 「それごらん。貨幣の数量を増やせば物価が上がるではありませんか。したがって貨幣数量説の正しさが証明された」
 
素人は貨幣数量説というのをこのように認識しております。非現実的仮定を設けないと成立しない仮説というのは、何かの参考にはなっても現実には成立しないということです。
 

それから、市況性の強い一次産品と消費者物価を構成しているモノやサービスとでは、その価格の決定プロセスがまったく違っているというこの本の指摘はまったくその通りだと思います。深く納得です。

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2013年10月25日 (金)

「連続講義・デフレと経済政策」(池尾和人著・日経PB社)を読む・第5回

30ページからです。②の式を再掲します。
 
 名目賃金上昇率-予想インフレ率=-α×失業率+β(α、βは定数)

この式の右辺を-αでくくると、

 名目賃金上昇率-予想インフレ率=-α(失業率-β/α)

β/αは自然失業率だから
 
 名目賃金上昇率-予想インフレ率=-α(失業率-自然失業率)
 
予想インフレ率を右辺に移項すると、
 
 名目賃金上昇率=予想インフレ率-α(失業率-自然失業率)
 
「失業率」を自然失業率と区別するために「現実の失業率」に書き換えると、
 
 名目賃金上昇率=予想インフレ率-α(現実の失業率-自然失業率)  (2)
 
ここで21ページの式を再掲します。
 
  価格=(1+m)×時間当たりの賃金÷労働生産性  (1)
 
この式の「価格」は経済全体で考えれば「物価」にあたります。この式が意味しているのは、マークアップ率mと労働生産性が一定だと仮定すると、名目賃金上昇率は物価上昇率(インフレ率)と等しくなるということです。そこで、(2B)の式の名目賃金上昇率をインフレ率に置き換えます。
 
 インフレ率=予想インフレ率-α(現実の失業率-自然失業率) (2B)
 
この式の意味するところをテキストは次のように説明しています。

人々の予想インフレ率が変わらない間(短期)には、現実の失業率とインフレ率の間に右下がりの関係がみられることになります。この意味で、フィリップ曲線の考え方が当てはまります。しかし、人々の予想が現実に追いついて、現実のインフレ率=予想インフレ率となったとき(長期)には、現実の失業率=自然失業率とならざるを得ない。ということで、長期的にみるとインフレ率と失業率の間にトレードオフは存在しない。

(2B)の式で予想インフレ率と自然失業率が不変(定数)なら、現実の失業率とインフレ率の間に右下がりの関係があることは理解できます。しかし、どうして長期と短期を区別する必要があるのでしょうか。
 
長期だろうと短期だろうと、現実のインフレ率と予想インフレ率が等しいときは現実の失業率が自然失業率に等しくなると思います。もっというと、長期的にみた失業率というのは、労働市場における需要と供給の関係から自然失業率を中心に上がったり下がったりしているのではないでしょうか?
 
最初、素人のわたしはこのように考えました。しかし、いろいろ調べてみると、経済学における長期と短期というのは独特の概念(非常識な概念?)で、何ヶ月とか何年とかといった具体的期間のことではないようです。

フリー百科事典のWikipediaは、経済学における「長期」と「短期」を次のように説明しています。

長期
経済学における長期(ちょうき)とは価格が完全に伸縮的である状態をいう。この時、価格メカニズムによる調整によって全ての市場(労働・財・貨幣など)で需給が均衡している。古典派経済学では長期の状態を想定しており、先験的な仮定としての完全雇用が成立している状態を長期均衡とする。なお、長期以外の状態を短期と呼ぶ。
 
短期
経済学において用いる場合の短期(たんき)とは、価格の粘着性などの原因により、何らかの市場(労働・財・貨幣など)で需給が均衡していない状態をいう。粘着性による価格メカニズムの不全以外にも、たとえば工場のように建設・廃棄に時間が掛かるため、需給が均衡していなくても調整が行われないという状態もある。不均衡であるため、失業や稼働していない生産設備などが存在し得る。
 
全ての財の価格が伸縮的で、価格メカニズムが完全に機能している状態を考えるものが長期均衡モデルである。これに対して価格メカニズムが完全に機能しない財が存在する期間を短期という。価格調整が完全に行われきっていない財が存在する状態を想定すれば、たとえ100年であってもそれは短期ということになる。

何のことはありません。長期には現実の失業率と自然失業率が等しくなるのではなくて、現実の失業率と自然失業率が等しくなったときが長期なんだそうです。
 
 
32ページに近年の経済学の標準的な見解が紹介されています。
 
 「持続的な失業率の低下を達成するためには、労働市場のマッチング機能を強化するための構造改革を進める以外にない」
 
つまり、自然失業率そのものを低下させない限り、持続的な失業率の低下は望めないということらしいです。深く納得です。

 
ところで、(2B)の式に関してですが、この式は「マークアップ率mと労働生産性に変化がない」ということが前提条件になっています。つまり、(2B)の式が成立するのは無条件ではありません。マークアップ率mと労働生産性に変化がない限りにおいてです。
 
22ページの
 
――でも、マークアップ率や労働生産性は常に一定ではありませんよね?
 
という疑問に対する答えをここでして欲しかったです。

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